ダークマターによる物理定数の振動的な変化には、原子時計が有効である可能性があるとする。原子時計は原子の遷移エネルギーの周波数を精密に測定することで実現されており、その周囲に存在するULDMがあれば、原子の遷移エネルギーの変動が原子時計の周波数を変化させ、超高精細な時間計測にズレが生じるためだ。なお、太陽近傍のULDMを含めたダークマターの正確な密度は不明だが、比較的低い感度の探査でも重要な情報が得られる見込みだという。
また太陽近傍のULDMの密度分布は、惑星の軌道によって制約されているとする。そのため、惑星軌道による制約がとても小さいと予想される、水星軌道よりもさらに太陽に近い領域で、宇宙船に搭載した原子時計用いて測定すれば、これらのモデルにおけるダークマターの限界を、すぐに世界最高水準で明らかにすることができるとしている。
水星の内側の軌道ということは、当然、太陽からの膨大な熱エネルギーや強力な放射線などに耐える必要があるが、そのための技術はすでに実現されている。その証が、NASAが2018年に打ち上げて現在運用中の太陽探査機「パーカー・ソーラー・プローブ」だ。同探査機は耐熱シールドを備え、2022年2月には100万℃もある太陽大気のコロナをかいくぐって、太陽半径の約12倍しかない853万キロ以内という、探査機史上で最も太陽へ接近した記録を樹立。つまり、同探査機と同レベルの耐熱機構を備えた探査機に原子時計を搭載して太陽近傍軌道に投入すれば、ULDMを検出できる可能性があるということだ。
そして搭載する原子時計には、近い将来の実現が期待されている100京分の1または1000京分の1という極めて高い精度が求められる。このレベルの原子時計を宇宙に打ち上げて測定することができれば、今回の提案のような実験の発見範囲が飛躍的に拡大していくことになるという。
また研究チームは、宇宙における原子時計を用いた測定には、ULDMの探索以外にも多くの成果を期待することができるとする。その一例に、物理量の精密測定による等価原理の検証がある。さらに、宇宙で原子時計の測定を行うことで、地上も含めた原子時計のネットワークを構成することによる多くの物理的成果を期待できるとした。