昨今、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大を踏まえたウィズコロナ・ポストコロナ社会のあり方を見据え、今後の新たな急性呼吸器感染症の突発的発生にも対応可能な技術を早期に創成し、安全・安心な社会・経済活動を維持できる環境を構築する必要がある中、この技術を利用することで、ウイルスのセンシングシステムも作成可能だという。
まず、同鋼板の表面に金フィルムをスパッタリングし、生体機能化を促進することで表面の錆びを防止した後、「11-メルカプトウンデカン酸」(11-MUA)に浸すとのこと。これにより、11-MUAが表面に「-COOH基」を持つ自己組織化単分子膜を形成する。
次に、「1-エチル-3-[3-ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド」(EDC)と「N-ヒドロキシスルホスクシンイミド」(NHS)への浸漬が行われた。これによりEDC/NHSを-COOH基と反応させることで、アミン反応性の「スルホ-NHSエステル」が形成される。そして最後に、Fe-Co/Niクラッド鋼板をCD13タンパク質溶液に浸すことで、HCoV-229Eが吸着すると共振周波数が変化する風邪コロナウイルスセンシングシステムが完成するという。
センシング実験では、研究チームで精製された風邪コロナウイルスのHCoV-229Eが用いられた。最初に、Fe-Co/Niクラッド鋼板をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)ですすぎ、未反応のCD13を除去した後に、CD13が固相化したクラッド鋼板にウシ血清アルブミンのブロッキングを行ってから、曲げ振動発電実験が実施された。そして、出力電圧と周波数の関係が測定され、クラッド鋼板によるHCoV-229Eセンシングの実現可能性が確認されたとする。
CD13が固相化したFe-Co/Niクラッド鋼板に曲げ振動を与えて共振させると、共振周波数はPBSと反応して減少し、HCoV-229Eが吸着するとさらに小さくなることが判明。この共振周波数の変化量から、HCoV-229Eを検出することが可能とした。Fluorescein isothiocyanate(FITC)標識抗体を併用した蛍光顕微鏡観察で、HCoV-229Eの感染力と蛍光度との関係解明と、クラッド鋼板に吸着したHCoV-229Eの定性的・定量的評価にも成功したという。
今回の研究結果から、CD13タンパク質を固相化させたFe-Co/Niクラッド鋼板が提案され、曲げ振動によりHCoV-229Eの検出可能性が示された。今後は、精度・感度向上のためのさらなる軽量化、HCoV-229E捕捉による周波数変化の情報受信時間での評価、HCoV-229E気中センシングの原理確立、ほかのウイルス(HCoV-NL63、HCoV-HKU1、HCoV-OC43やMERS-CoV、SARS-CoVなど)への応用が期待されるとした。