そして2021年11月3日から5日にかけて、太陽フレア(太陽面爆発)に伴う激しい宇宙線変動が生じ、昭和基地でもその変動を観測することに成功したという。太陽風速度が「衝撃波」を境に急上昇し、「磁気ロープ」が観測された期間に、宇宙線が減少する様子が確認された。
さらに、この宇宙線減少の全体像を把握するため、昭和基地だけでなく世界各地の21の中性子モニターと69のミューオン計のデータも解析がなされた。宇宙線減少と宇宙線の風をモデル化して、合計90の宇宙線計データの期待値を求め、それらが観測結果にもっとも良く合うようにモデルの最適化が行われた。
宇宙線の風として一方向流と双方向流の2つを仮定して、最適化されたモデルで得られた宇宙線減少と宇宙線の風の強さがグラフ化された。すると、宇宙線が2段階で減少している様子や、磁気ロープの中央付近で宇宙線の風の強さが大きくなっていることが判明。特に、磁力線に沿う2方向から吹く宇宙線の風(双方向流)が極端に強く、その強さは宇宙線減少の大きさに匹敵していることも見て取れるとした。
宇宙線減少と宇宙線の風のエネルギー依存性を示す「べき指数」のグラフも作成された。同指数がマイナスの場合、宇宙線減少や宇宙線の風の強さがエネルギーとともに減少していることを意味するという。同指数も激しく変動しており、そして宇宙線の風の強さが大きくなっているときに、同指数が宇宙線減少と同じおよそマイナス1に近づいていることが確認された。これは、宇宙線減少や宇宙線流の強さが、エネルギーにほぼ反比例していることが示されているとした。
これらのことは、強い双方向流は、宇宙線の多い領域から磁力線に沿って流れ込んだ宇宙線が、磁力線に沿って往復運動しながら磁気ロープ内に閉じ込められた結果生じたことを示しているという。同現象は人工衛星などで観測される低エネルギー粒子では知られていたが、地上で観測される高エネルギー粒子で、今回のように強い双方向流が確認されたのは初めてのこととしている。
昭和基地に設置された両観測装置は、宇宙の同じ方向を同時観測できることから、観測方向の違いを気にせず、観測エネルギーの違いによる差のみを見ることが可能だ。上述したモデルは、昭和基地の両装置の観測結果を良く再現しているという。2つのカーブの間隔が変化しており、それはエネルギー依存性が激しく変化していることを明瞭に示しているとする。
研究グループは現在、これらの宇宙線計の観測性能を向上する計画が進行中であり、今後の観測が期待されるとした。