ブラックホール連星系は、その状態が観測時期によって変化し、X線の放射がコロナからの場合と円盤からの場合とがある。今回の場合は、測定されたX線スペクトルから、コロナから放射されたX線で明るく輝いている状態にあることが判明したという。つまり、この明るく輝いている状態のX線偏光を測定すれば、X線の放射源であるコロナと、それを反射する円盤との位置関係を導き出せるということである。
データ解析の結果、X線はわずかに偏光しており、その方向はブラックホールの双極からのプラズマ噴出流である「ジェット」の方向(円盤の垂直方向)とそろっていることが判明。このX線偏光の強さから、コロナはジェット方向には存在せず、円盤の両面を覆っているか、もしくは円盤の内縁とブラックホールとの間に位置していることが考えられるという。
今回の研究において、X線偏光を測定するという新しい天体観測手法を用いることで、ブラックホール近傍のコロナの形状および場所が示されたことから、同様の手法は、中性子星と恒星などのブラックホール以外の連星系にも応用でき、さらなる発見が期待できると研究チームでは説明している。
また、今回のはくちょう座X-1の観測はコロナからのX線が明るい時期に行われたが、コロナがほとんど見られず、円盤からのX線が非常に明るくなる時期もある。この場合、X線を放射する円盤はブラックホールのより近傍まで引き込まれるため、その強力な重力場により生じた時空のひずみにより、X線偏光が変化すると予想されるとのことで、この変化をIXPE衛星で観測することで、近い将来、ブラックホール近傍における強重力場下の物理の検証や、ブラックホールの自転速度の測定が可能になることが期待できるともしている。