今回の研究では、RIBFの加速器から供給される、光速の約70%まで加速された原子番号20のカルシウムの放射性同位体48Ca(中性子数28)を用いた大強度ビームを、厚さ20mmの原子番号4のベリリウム(Be)標的に照射し、「入射核破砕反応」によって、39Naを含む中性子過剰放射性同位元素ビーム(RIビーム)を生成。その後、BigRIPSを用いて、生成されたRIビームを収集・分離し、観測される放射性同位元素の粒子識別(同定)が行われた。これらの装置により、中性子ドリップライン近傍の同位元素の生成に対して、十分な生成効率を実現したという。
粒子識別は、RIビームの飛行時間(速度)、磁気剛性、物質通過中のエネルギー減衰を測定し、放射性同位元素の陽子数(Z)および質量数(A)と陽子数の比(A/Z)を事象ごとに導出することで行われた。精密なデータ解析により実験は成功し、39Naの明瞭な観測が実現。生成された39Naの総数は9個であり、疑いのない発見が示されているとしており、これらの結果から、39Naの原子核が束縛していることが解明されたとする。
今回の成果は、中性子過剰極限に特徴的な原子核構造や核力の解明に寄与することが期待できると研究チームでは説明している。また、39Naの原子核の中性子数は28で、この個数は、安定同位体の領域においては原子核を安定させる「魔法数」の1つだが、今回の実験結果から、中性子過剰極限においてこの魔法数28が消失しており、その結果、39Naの原子核が変形していると解釈できるとも説明。この領域では原子核が変形すると核子はより強く結合し、原子核はより束縛するからであり、この解釈は、最近の最先端の理論計算とも整合するとしている。
また、超新星爆発などによって引き起こされる高速の元素合成「r過程」には中性子過剰核が介在するが、その解明にはそれらの質量予想が重要だとする。今回の成果は、こうした中性子過剰核の質量モデルの有効性を検証する上で、重要な試金石になることも期待できるとしているほか、正しい質量モデルは、中性子星の構造の解明に必要な中性子過剰核の状態方程式の決定にも重要な役割を果たすとする。
なお、研究チームとしては、次なる挑戦として、さらに中性子過剰なNa同位元素の探索、中性子数30のマグネシウム-42や同32のアルミニウム-45など、より陽子数の大きい超中性子過剰同位元素の探索が考えられるとしている。また、理研のRIBFでは、大幅なビーム強度の増強を目指した高度化計画が進行中で、達成の暁には中性子過剰極限に向けた研究が進展し、核図表の境界線の確定が進むことが期待できるとしている。