シミュレーションでは、鉄より重い元素に富んだ星がいつ・どこで・どのように形成されたのかが解析された。星が形成された時期を調べると、鉄より重い元素に富んだ9割以上の星が宇宙誕生から40億年以内に形成されたことが判明したという。つまり、それらは100億歳ほどの年齢ということになる。
またシミュレーションでは、それらの星々の多くは、まだ形成途中の小さな銀河で誕生したことも明らかにされた。こうした小さな銀河では、ガスの量が少ないため、一度の貴金属合成現象でも銀河全体の鉄よりも重い元素の割合が高くなる。そのような環境で星が生まれると、その星に引き継がれる鉄より重い元素量も高くなるとする。
すばる望遠鏡などで観測された天の川銀河の星の貴金属量と、シミュレーションで予測された貴金属元素の1つであるユーロピウムの量を比較すると、よく似た分布をしていることが示された。この結果は、天の川銀河に見られる鉄より重い元素に富む星の多くは、100億歳以上の年齢を持ち、宇宙初期の天の川銀河の形成史を今に伝える星々であることを意味しているという。さらに、今回の研究では、2017年に重力波が検出された連星中性子星合体から放出される貴金属量を仮定することで、天の川銀河の鉄より重い元素量を矛盾なく説明できたとする。
今回の研究成果により、鉄より重い元素に富んだ星々を指標として、これまで謎だった100億年以上前の天の川銀河形成史を探ることが可能になった。これにより、宇宙全体から我々の身体を形作る元素のスケールまで分野の垣根を超えた研究が展開されることが期待されるという。
研究チームは今後、理化学研究所のスーパーコンピュータ「富岳」によるシミュレーションやすばる望遠鏡などによる観測を駆使して、138億年にわたる天の川銀河形成史のさらなる解明に挑む予定としている。