この結果を踏まえ、ビート同期の脳内メカニズムを探るために、ラットの聴覚野において、音楽に対する脳活動の計測が行われたところ、ラットの聴覚野は、モーツァルトの原曲(132BPM)に対し、最も明確なビート同期が示されたとするほか、単純でリズミックな音刺激に対する聴覚野の活動の調査からも、120BPM付近で最も明確なビート同期が示されたという。

  • 音楽提示中のラットの頭部運動の例

    音楽提示中のラットの頭部運動の例。ビート同期運動は、加加速度(ジャーク、1秒間の加速度変化)で明瞭に記録された (c)東京大学 情報理工学系研究科 生命知能システム研究室 (出所:東大プレスリリースPDF)

これらの結果から、120BPMへの同期を生むメカニズムとして、脳の順応特性が考察されたことから、その数理モデルを作成し、実験データの説明が試みられたところ、音刺激後の約250msは、次の音に対する脳の反応を強く抑制する順応特性が顕著に見られ、この特性が120BPM付近のビート同期を生むことが解明されたとする。

また、この順応特性により、ランダムな音系列に対する聴覚野の反応について予測が試みたところ、音と音の間隔の平均が200msの音系列に対して、最も高い予測精度を示すことが判明。しかも、クラシック音楽のデータベースでの調査から音楽の音間隔の平均も200msであることが判明したことから、研究チームでは、大変興味深い結果としており、ラットの脳活動から推定された順応特性は、120BPM付近への同期を生むだけでなく、音楽の鑑賞や創作(作曲)に関連している可能性が示されたとしている。

研究チームでは、今回の研究により、ビート同期を生む脳のダイナミクスが、動物種を超えて観察されたことは、ビート同期の進化を解き明かす大きな手がかりとなるとするほか、長い年月をかけて人間社会で発展してきた音楽は、動物種を超えて、脳への強い訴求力を発揮する可能性も考えられるとしており、今回の研究で示された動物種共通の脳のダイナミクスは、今後、音楽やダンスの起源と発展を解明する重要な手がかりとなることが期待されるとしている。

そのため今後は、リズムに加え、旋律やハーモニーといった音楽のほかの特徴でも、脳のダイナミクスとの関連性の解明に取り組むとしているほか、音楽が脳のダイナミクスへ与える影響に基づき、脳に訴求力を発揮する音楽のメカニズムを科学的に解明し、その可能性と有用性を探求していくとしている。

音楽が流れてくると後ろ足だけで立ち、頭を振るなどのビート同期を見せるラットの様子 (出所:YouTube「生命知能と人工知能 AI時代の脳の使い方・育て方 (高橋宏知)」チャンネル)