CSS完成へ

今回の夢天は、現時点でのCSSにとって最後の恒久的なモジュールとなる予定で、今後運用開始に向けた各種試験やドッキング位置の移動などを経て、CSSはひとまず完成を迎える。完成時には、天和、問天、夢天がT字型に結合された姿となる。

中国の宇宙開発において中心的な存在である国有企業、中国航天科技集団は、完成が間近に迫ったことについて、「今年は、中国の有人宇宙プロジェクトの設立とスタートから30周年を迎えます。有人宇宙計画は3段階に分けて開発する戦略を取っており、夢天モジュールの打ち上げ成功は、『宇宙ステーションの建設と大規模で長期的な有人宇宙利用の実施』を定めた、第3段階の完了を意味するのです」との声明を発表している。

今後、11月26日には3人の宇宙飛行士が乗った有人宇宙船「神舟十五号」の打ち上げも予定されており、現在滞在している神舟十四号のクルーとともに、約10日間、計6人の宇宙飛行士がCSSに同時滞在することになっている。また、無人補給船「天舟五号」の打ち上げ、物資の補給も計画されている。

さらに2023年以降には、「巡天」と呼ばれる宇宙望遠鏡モジュールの打ち上げも計画されている。巡天は大型の光学宇宙望遠鏡を装備しており、米国の「ハッブル宇宙望遠鏡」に匹敵する性能をもつとされる。

この巡天は、CSSと編隊飛行しながら宇宙を観測し、ときどき推進剤の補給やメンテナンスのためドッキングするという運用が行われる。つまり夢天のような恒久的な結合はされない。

望遠鏡にとって振動は大敵であり、人や機器の振動がつねに発生している宇宙ステーションと常時結合するのは得策ではない。一方で、宇宙飛行士がいれば修理や調整などが簡単に行えることは、「ハッブル宇宙望遠鏡」の修理ミッションでも証明されていることであることから、巡天の運用方法は優れたコンセプトといえよう。

CSSの完成、それによる本格的な宇宙実験や、宇宙飛行士3~6人の常時滞在が始まることで、中国の有人宇宙開発は新たな章を迎えることになる。中国は国連宇宙部を通じ、CSSを使った宇宙実験を他国にも開放しており、米国やロシア、欧州、日本などが運用するISSと並んで、人類の宇宙の橋頭堡として活躍が期待される。2020年には、新しい宇宙飛行士の候補者18人が選抜されており、宇宙ステーションへの長期滞在に向けて訓練が続いている。従来、中国の宇宙飛行士は空軍のパイロットのみから選ばれていたが、この新しい宇宙飛行士候補には民間の技術者、科学者も選ばれており、今後のCSSの本格的な運用、利活用を強く意識した人選となっている。

一方、ISSは2030年までの運用が見込まれているが、建設開始からまもなく四半世紀が経とうとしており、老朽化が進んでいる。さらに最近では、ロシアが2024年ごろの撤退を匂わせていることもあり、その将来性は不透明となっている。

また、米国航空宇宙局(NASA)は、ISSの後継機として民間主導で宇宙ステーションを建設、運用させる計画を進めているが、その打ち上げは早くとも2027年以降となる予定となっている。

そのため、今後の状況によっては、地球低軌道における有人宇宙活動において、米国主導のISSに代わり、中国が大きな存在感を発揮することになる可能性もある。

  • CSSの完成予想図

    CSSの完成予想図 (C)CMS

長征五号Bは今回も無制御落下か?

CSSのモジュールの打ち上げで毎回問題となるのが、打ち上げに使う長征五号Bのコア・ステージ(第1段機体)の無制御落下の問題である。

長征五号Bは、まさに夢天のような大質量かつ巨大な衛星を効率よく打ち上げることを目指して開発されたロケットだが、その代償として、巨大なコア・ステージごと地球を回る軌道に乗ってしまうという欠点がある。さらに、コア・ステージには軌道離脱のための制御装置などは搭載されておらず、大気との抵抗などで自然に落下するのを待つしかない。さらに、機体が巨大なことから、大気圏に再突入しても完全には燃え尽きないことがあり、可能性は低いものの、燃え残った破片が地上に落下するおそれがある。さらに、いつどこに落ちるかを正確に予測することは困難であるという問題もある。

長征五号Bはこれまでに3機が打ち上げられており、そのうち2020年には、西アフリカのコートジボワールに燃え残った配管の破片のようなものが落下。幸いにも人的被害は報告されていない。また、他のケースでは海に落下している。

今回打ち上げられた機体も、今後数日以内に大気圏に再突入するものとみられる。機体は米国宇宙軍や欧州、民間企業などが追跡しており、随時情報が発信されれている。

地表の大半は海であること、さらに陸地の中でも人が住んでいる場所は限られていることから、人的被害がもたらされる可能性は低いが、今後の情報には注意すべきだろう。

なによりも中国には、宇宙開発を行う国の責任として、今後ロケットに再突入を制御できる装置を搭載するなどの対策を取ることが求められる。

  • 打ち上げ準備中の長征五号Bロケット

    打ち上げ準備中の長征五号Bロケット。この下半分、中央部分がコア・ステージで、これがまるごと軌道に乗り、そして再突入することになる (C)CNSA

参考文献

http://www.cmse.gov.cn/xwzx/202210/t20221031_51175.html
http://www.cmse.gov.cn/xwzx/202211/t20221102_51190.html
http://www.cnsa.gov.cn/n6758823/n6758838/c6841277/content.html
The Aerospace Corporation(@AerospaceCorp)さん / Twitter