申請者が増えれば個別の支給額が減るジレンマ
米国政府は、CHPS法の施行により、半導体の研究や製造に総額527億ドルの資金を用意したが、半導体工場への補助は390億ドルで、しかも初年度の割り当ては190億ドルである。これを、すでに新ファブの建設を米国内で開始しているIntel、TSMC、Samsung、Texas Instruments、Micron Technology、Skywater、GlobalFoundries、onsemiなどといった半導体メーカーやApplied Materials、ASMLといった多数の半導体製造装置・材料メーカーで分配すると個別の補助金は少額になってしまう。申請手続きの開始自体は2023年からになる模様で、申請の全体像はまだ見えていないのが実情である。
かつて、日本では「米国は520億ドルもの半導体補助金を計上しているのに、TSMCの熊本進出に際しては5000億円程度の補助金しか出ない」などといった議論もあったが、CHIPS法は複数年度にまたがった補助金の総額であり、日本の個別企業向け補助金、しかも単年度のものを比較するのは、若干、話の筋がズレていると言える。
自民党半導体戦略推進議員連盟の甘利会長は、2021年12月に「今後10年間で7~10兆円必要」と述べており、同議連は2022年5月にも、「今後10年で官民あわせて10兆円規模の追加投資を行うべきである」と決議しているが、概算というだけで何に使うか不明である。
今後も経済産業省や文部科学省は年度ごとの予算のほか、補正予算も計上していくことが予想されるため、米国のような全体像が見えにくいことが議論を難しくしているように見受けられる。
なお、米国でも軍事用あるいは軍民デュアルユースの半導体技術関連の予算は、CHIPS法とは無関係に、従来通り国防総省が経常予算として計上している点に注意が必要である。