NILS-LSAの1919名のデータから、変量を調整して因果効果を推定するバランス調整の統計手法を用いて、ビタミンD欠乏群(血中の25OHD量が20ng/ml以下)および充足群の比較解析が行われた結果、ビタミンD欠乏群では筋力低下が進行することに加え、サルコペニアの新規発生数も有意に増加することが見出されたという。このことは、ビタミンD欠乏が将来的な筋力低下を導き、結果としてサルコペニア罹患率が上昇することを示唆していると研究チームでは説明している。
また、疫学研究で得られたビタミンD欠乏と筋力低下の分子メカニズムを明らかにするため、ビタミンD受容体遺伝子「Vdr」を成熟した筋線維で特異的に欠損させたコンディショナルノックアウト(VdrmcKO)マウスを新たに作出。同マウスでは、骨格筋の遅筋線維と速筋線維の両方でVdrが欠損し、両筋線維タイプでビタミンDによるシグナル伝達が抑制された状態になることが特徴だという。
同マウスの表現型の解析が実施されたところ、筋重量、筋線維径、筋線維タイプ、骨格筋幹細胞数など骨格筋の量的形質には影響は見られなかったが、有意な筋力低下が認められたとするほか、同マウスでは、筋線維の収縮・弛緩にかかわる遺伝子「Serca1」と「Serca2a」の発現が減少し、骨格筋における「筋小胞体Ca2+-ATPアーゼ活性」が低下していることも判明。これらの結果は、成熟筋線維におけるビタミンDシグナルの低下、もしくは抑制がSerca発現を介して筋収縮に影響を与え、結果として筋力低下が引き起こされていることが示されているとする。
高齢者において、ビタミンDが不足しがちになることは広く知られていたが、今回の研究により、高齢者で生じる筋力低下やサルコペニア発症にビタミンD不足が深くかかわる可能性が示されたと研究チームでは指摘する。また、より長期的な検証が必要ではあるが、今回の研究成果は、血中ビタミンDがサルコペニアの発症を予測するバイオマーカーの1つとなり得ることを示しており、サルコペニア予防に貢献することが期待されるとしている。