具体的には、世界最高水準の遅発中性子検出装置「BRIKEN」などを用いて、原子核のベータ崩壊に伴って放出される希少な中性子が効率的に測定された。そして測定結果が統計処理され、遅発中性子放出確率が高い精度で決定された。このうち、最も中性子過剰な以下の原子番号47の銀から50のスズまでの4元素計8種の同位体は、世界で初めて遅発中性子放出確率が得られたという(カッコ内は中性子の個数)。

  • 銀:130Ag(83)、131Ag(84)
  • カドミウム:133Cd(85)、134Cd(86)
  • インジウム:135In(86)、136In(87)
  • スズ:138Sn(88)、139Sn(89)

また、136Inを含む6種では中性子を2個放出する現象も観測されたとする。

  • 実験装置の全体像

    (左)実験装置の全体像。(右上)生成されたRIの粒子識別結果。黒線で囲った領域は、今回初めて遅発中性子放出測定に成功した8種類の原子核。(右下)中性子を2個放出する現象の例。インジウム-136が遅発中性子を放出し、スズ-135およびスズ-134に変換される様子 (出所:理研Webサイト)

遅発中性子を放出する確率は中性子が過剰になるほど増加するが、今のところ理論計算では半減期と遅発中性子放出確率(P1n、P2n)を精度よく予測することは難しく、実験値との誤差が大きいことが確かめられたという。

r過程で生成されたRIがベータ崩壊し、安定核にたどり着く過程で遅発中性子を1個(または2個)放出すると質量数が1つ(または2つ)減り、別の元素となる。ベータ崩壊により安定な原子核にたどり着く様子を再現するためには、RIが遅発中性子を放出する確率を考慮する必要があるとする。

そこで、新たに得られた遅発中性子放出確率のデータを連星中性子星合体における重元素合成計算に取り込み、太陽系の質量数129~139の同位体分布が計算された。その結果、r過程での同位体分布は質量数130にピークを持ち、以下の偶数の質量数を持つ元素が多いことがわかったとする(元素名の後ろのカッコ内は原子番号)。

  • テルル(52):130Te
  • キセノン(54):132Xe、134Xe、136Xe
  • バリウム(56):138Ba

そして、奇数の質量数を持つ以下の元素が少ないことがわかった。

  • ヨウ素(53):129I
  • キセノン:131Xe
  • セシウム(55):133Cs
  • バリウム:135Ba、137Ba

これらから、実際の同位体分布の凹凸パターンをよく再現することが判明したという。

  • r過程で合成された中性子過剰核が安定核にたどり着く経路とr過程成分の再現

    (左)r過程で合成された中性子過剰核が安定核にたどり着く経路とr過程成分の再現。(右)金属欠乏星のバリウム同位体比との太陽系のバリウム同位体比 (出所:理研Webサイト)

また、同様の計算でBa同位体比の見積りが行われたところ、宇宙初期の天体である金属欠乏星の成分比と近いことが明らかにされた。

なお、今回の成果について研究チームでは、加速器実験による測定値から同位体比を正確に予測した初めての結果であり、宇宙初期と太陽系の重元素の起源の解明に新たな道筋を与えることが期待できるとしているほか、今回の研究では、太陽系のr過程成分のBaの同位体比が金属欠乏星と比較されたが、同様の手法でXeの同位体比の検証も可能だとしている。

このほか、さまざまな元素の同位体比の分析は、隕石や海底においても精力的に行われており、すでに消失してしまった多くの中性子過剰な原子核のデータを正確に取り込んだr過程の計算による同位体比分析法は、今後のr過程の研究において強力な検証手段となることが期待できるともしている。