プラズマクラスターの照射で気道上皮細胞での粘液分泌に変化を確認
一方の森准教授が行ったのが、人工的に培養したヒトの気道上皮細胞にプラズマクラスターを照射するという研究。気道は鼻の中から肺の中まで、息をするときの通り道で、それを形作る細胞が上皮細胞とされ、気道の防御に必要だと考えられている。しかし、喘息患者においては、気道上皮から出る粘液分泌のバランスが崩れてしまうことが知られているという。
気道上皮細胞は、大きく粘液分泌細胞と線毛上皮細胞があり、粘液を作り、細胞上にある繊毛を動かすことで、適度な粘稠の粘液が菌/ウイルスなどの異物を捉えて体外へ排出するバリア機能を担っている。しかし、喘息患者の場合、粘液のバランスが崩れ、喘息発作時に、ネバネバとしたより粘度の高い粘液が多く出てしまい、気道の表面に粘液が溜まり流れにくくなることで、気道を狭めたり、栓をしてしまうため呼吸が苦しくなることがあることが知られていたとする。
そこで今回の研究では、健常者のヒト組織幹細胞を約1カ月かけて分化誘導した気道上皮細胞をシート状に培養したものを検証細胞として用い、細胞が正常に生き続けられるよう、体内環境に近い温度湿度とCO2濃度を維持した細胞培養装置(インキュベーター)内に設置した12Lのボックスに、サンプル位置にイオン濃度10万個/cm3のプラズマクラスターを2時間ならびに24時間照射し、その後の細胞の生育状態の観察ならびに定量的な遺伝子発現解析(qPCR)を実施し、検証を行ったという。
その結果、照射24時間後の細胞表面の状態に変化がなく、細胞に損傷がないことが確認されたほか、2時間の照射でも気道の高粘度の粘液分泌の指標が減少し、よりサラサラな低粘度の粘液分泌を促す効果が認められたという。
森准教授は、上皮細胞だけを使った検証なので、実際の患者での試験をしてみないと、実際の効果があるかどうかはわからないが、もし患者の体内でも同じ効果が得られるのであれば、喘息症状の緩和につなげられる可能性があると思うと語っており、今後のプラズマクラスター技術の医療応用や、技術そのものの進化に期待したいとしている。
なお、上皮細胞に対するプラズマクラスターイオンの作用機序については検証中とのことで、今後、どのように解釈していくかがポイントになるとしており、さまざまな照射時間の変更や、解析タイミングの変更などを行っていきたいとしているほか、喘息患者に対して実際に症状緩和が生じるのかどうかについては臨床試験をする必要があるとするものの(今回は基礎実験の扱い)、すでにシャープで小児喘息においては気道炎症レベルが低減する効果を確認していることから、今回の成果もそれに関連している可能性があるとしている。