オープンな機会や場の醸成に挑む
水野会長兼CEOは、「SHMは、顧客との関係性を変えていきたいと考えている。クルマの販売や、アフターサービスでつながっていた関係から、バリューチェーン全体で顧客との関係を、長く、深くするために、リアルとデジタルを融合させた新しいサービスを提供したい。サービスを介することで、ハードウェア(クルマ)を持たない顧客とも、多くのつながりをつくり、ブランドに共感してもらえる仲間が集うコミュニティづくりを目指す」とした。
サービス開発においては、新たな体験価値の創出のために、先行技術を積極的に投入するだけでなく、専門性を持つ数多くのパートナーとの協業を想定。「そのためには、顧客とダイレクトにつながるネットワーク構築が大切であり、商品開発プロセスにもカスタマーやクリエイターに参加してもらい、商品の販売後も、行動特性や嗜好を理解し、パーソナライズした顧客体験を提供する」と述べた。
また、川西社長兼COOは、「自動車業界は、自動車OEMを頂点として、数多くのパートナーに支えられて産業構造が成り立っている。しかし、水平分業が浸透しているIT業界では特定の領域において優位性を持つレイヤーマスターの存在が大きくなっている。EV化が進むことにより、ITの比率が高まり、自動車を支えるステークホルダーとの関係を見直す必要が出てくるだろう。パートナーやサプライヤーに対しては、SHMが目指すビジョンを共有し、オープンで対等な新しいパートナーシップを築きたい」と語り、「モビリティにおいても、クリエイターとの関係を深めたい。モビリティがクラウドとリアルタイムに同期することで、これまでにない双方向性のあるモビリティ社会と、新しいエンターテイメントが創出できる」とした。
ここでは、「情報を発信するモビリティが、テーマの1つになる」と語り、「これを支えるソフトウェアには、車載ソフトウェアだけでなく、クラウド上のソフトウェアまでを含めて、一貫した統合的なソフトウェアフレームワークが必要になる。モビリティを単一の組み込みハードウェアとして考えるのではなく、リカーリングビジネスを想定した移動体験サービスという概念で、全体のアーキテクチャーを設計していくことになる」と述べた。
今回の新会社に対して、業界内外から関心が集まっている理由の1つが、ソニーとホンダという異業種でありながらも、近い文化を持った2社の協業によって新たな事業を推進するという点だ。
会見でもその点に関する言及があった。
水野会長兼CEOは、「この関係は、ソニーだから組めたともいえる。人の感性や行動に働きかける商品やサービスを提供するという、ソニーとホンダが最も大切にしている思想を大事にしたい」と述べ、「2社の知見と技術を結集するだけでは革新は生まれない。共感、共鳴してもらえるカスタマー、パートナー、クリエイターの知を結集し、革新を生みたい。オープンに参加してもらえる機会や場の醸成に積極的に取り組む」と述べる。
また、川西社長兼COOは、「2022年3月の共同発表を前後するタイミングで、両社のメンバーが集まって、いくつかの分野における共同開発のためのワークショップを立ち上げた。考え方や視点の相違、理解不足、用語の違いなどがあったが、お互いの価値観をぶつけて、真摯に議論し、それらを共有してきた。議論を通じて、他の会社にはない運命的なシンパシーを強く感じた。共通点や相違点を認識しあえる価値のある時間だった」と述べ、「両社の共通点は、新たなことへのチャレンジ精神だけでなく、人を中心とした経営の考え方、商品へのあくなきこだわりなどである。一方で、相違点は自動車OEMとIT企業という異業種としてのアプローチの違いにある。ホンダには将来を見通す緻密さがあり、ソニーには将来の変化に適応する柔軟さがある。これは、開発手法におけるウォーターホールとアジャイルの違いに起因するものである。企業文化を尊重し、認め合い、新たなモビリティの価値を創出すべく、Mobility Tech Companyを目指し、モビリティとITの融合を強く進めていく」とした。
さらに、川西社長兼COOは、「スタートしたばかりの会社だが、スピード感を持って、グローバルで戦えるチームを目指す。メカとエレクトロニクスがソフトウェアの進化によって融合し、新しいモビリティの時代を切り開いていくことができる」と意気込みをみせる。
水野会長兼CEOは、「2025年が、電動化のシフトのターイニングポイントになる。このタイミングは外せない」とし、急ピッチで製品化を進める考えを示す。
本格的にスタートしたソニー・ホンダモビリティがどんなクルマを作り上げるのか。業界内外から大きな関心が集まっている。