その結果、以下の2つの仮定からなる「両極性モデル」を立てることによって、Muの実験結果を統一的に記述できることが示されたとする。

  1. 中性状態を伴うMuや水素の状態は準安定状態にあること
  2. これらの状態が、第一原理計算で準安定状態として予測されるアクセプター準位、およびドナー準位を伴った状態に対応すること

特に、ワイドギャップ酸化物中で観測される中性状態は、アクセプター準位(E0/-)に電子が1個束縛された状態で、これと対になって観測される正イオン状態は、ドナー準位(E+/0)が伝導帯に入り込んだ状態に対応することが判明したという。

  • 格子間の孤立水素の形成エネルギーとバンド構造の模式図

    (a)第一原理計算(密度汎関数理論に基づく)によって見積もられた、酸化物絶縁体・半導体中における格子間の孤立水素(H+、H0、H-)の形成エネルギーとバンド構造の模式図。(b)フェルミ準位を価電子帯トップから伝導帯の底へと変化させる(電池の電圧を上げる)と、H+の形成エネルギーとH-の形成エネルギーの交点E+/-でHの荷電状態が+から-に変わる、つまりHが電子を2個受け取るので、Hに付随した不純物準位がE+/-にある、と見なせる (出所:KEKプレスリリースPDF)

研究チームによると、両極性モデルは、孤立水素についての第一原理計算とMu/水素の実験結果との統合的な理解へ向けての端緒となると思われ、実験と理論との有機的な協働による、材料中における水素の詳細な理解へとつながることが期待されるという。

  • 今回提案された水素の両極性モデル

    今回提案された水素の両極性モデルでは、H+の形成エネルギーとH0の形成エネルギーの交点をドナー準位(E+/0)、H-の形成エネルギーとH0の形成エネルギーの交点をアクセプター準位(E0/-)と仮定し、さらにH(あるいはMu)はこれらに対応した2つの準安定状態を同時に取り得ると仮定する(両極性)。(b)水素(Mu)はこの準位を経由して伝導帯・価電子帯と電子・ホールのやり取りを行うことで中性状態を取ることができる。特にワイドギャップ酸化物中ではE+/0伝導帯に入り込むため、この準位の電子は常に伝導帯に放出され、E0/-準位に電子が1個束縛されたH0(Mu0)とH+の2つの状態が観測される (出所:KEKプレスリリースPDF)