スキルミオン物理リザバー素子では、入力が磁場、出力が磁化の値となる。このとき磁化の値はスキルミオンの状態が反映される。交流磁場をかけたときのスキルミオンの状態と磁化の値を、それぞれ磁気構造を観察できるカー顕微鏡と磁化の値を反映する異常ホール効果を用いて、詳細な調査を実施。その結果、スキルミオンの変形および磁化の値が、入力した磁場に対して非線形であること、現在の入力だけでなく過去の入力信号にも依存していることが判明したという。このことから、磁場誘起のスキルミオン変形は物理リザバー素子に要求される性質を持っており、スキルミオンが物理リザバー素子に応用可能であることが示されたと研究チームでは説明する。

  • スキルミオン物理リザバー素子の概念図

    (左上)スキルミオン物理リザバー素子の概念図。(右上)実際の素子の画像。(下)入力信号に対する出力信号の振る舞い (出所:東大Webサイト)

また、スキルミオン物理リザバー素子を用いて、人工知能素子の性能評価手法の1つである「波形認識問題」が実行可能であるかどうかが調べられたところ、可能であることが確認されたほか、スキルミオンの数が異なる複数の物理リザバー素子を作製し、それぞれの波形認識問題での認識率を調べたところ、スキルミオンの数が増えるにつれ、波形認識の認識率が高くなる傾向があることが発見されたとする。このことについて研究チームでは、スキルミオンを用いることで物理リザバー素子の高性能化につながる可能性が示されているとする。

さらに、スキルミオン物理リザバー素子を用いて、より複雑かつ実用的な、手書き数字の識別問題を実行できるかどうかの調査を実施。調査方法としては、多くの人に0から9までの数字を書いてもらい、合計で1万3000個の手書き数字を扱いやすいようにデータとして前処理した上で、スキルミオン物理リザバー素子に学習データとして入力した後、学習データに含まれていない手書き数字データでも識別が可能なテストを実施したという。その結果、スキルミオン物理リザバー素子は、95%近い認識率を得ることに成功したという。この認識率は、これまで報告されてきた、人工知能素子における手書き数字識別の認識率に匹敵するものであり、スキルミオンを人工知能素子として利用できる可能性があることが示されたと研究チームでは説明している。

  • スキルミオン物理リザバー素子による波形認識

    (上)スキルミオン物理リザバー素子による波形認識。(左下)手書き数字のサンプルの一部。(右下)実際に入力された数字とスキルミオンが予想した数字の関係 (出所:東大Webサイト)

なお、今回の研究にて入力信号として用いられた磁場は、素子の微細化が難しいという課題がある。そのため今後は、今回の研究で得られた知見をもとに、磁場の代わりに電流や表面弾性波といった微細化に適した信号を入力とするスキルミオン人工知能素子の研究を進めることで、低消費電力かつ高集積・高性能な人工知能素子の実現につながることが期待できるという。