そこで研究チームは今回、3つのX線天文衛星で取得された活動銀河核NGC5548のアーカイブデータを用いて研究を行うことにしたという。先行研究のうち、あるものは2年間にわたるX線スペクトル変化に対し、二層の独立な部分吸収体(X線を遮断するツブツブ状の吸収体)を仮定したモデルが適用されており、コロナから放射されたベキ型スペクトルの光子指数と片方の部分吸収体による部分吸収率との間に相関があると報告していたとする。しかし、X線放射機構自体に由来する光子指数とコロナから遠く離れた吸収体が放射源を隠す割合が相関するのは物理的に不自然だという。
そこで、この相関は必要以上のパラメータを含んだモデル設定による「パラメータ縮退」と考察し、よりシンプルなスペクトルモデル構築を試みることにしたとする。
結果として、二重構造を持った塊状の物体(吸収体)が視線上を部分的に遮り、X線源を覆う割合が変化しているというシンプルなモデルで、不自然なパラメータ相関なしに、16年間のX線スペクトル変動を説明することに成功したという。
今回の研究はスペクトル解析で閉じることなく、得られた物理パラメータの正当性を吟味することで、大質量ブラックホール近傍環境のより現実的な物理モデルを構築することに成功した形だという。
なお研究チームでは今後、2023年に欧米の国際協力によりJAXAが打ち上げ予定の7番目のX線天文衛星「XRISM」により、超精密分光データが得られる予定だとしており、XRISMのデータに対し、今回の研究で提案されたモデルを適用することで、現在の物理描像の整合性が確認され、より現実に即した物理環境の理解へつながると期待しているという。