ヒト乳がん細胞を移植されたマウスに投与すると、FL2はHER2分子に結合すべく移植されたがん細胞へと集積していったことから、実験として、大きさ平均417±88mm3のヒト乳がん細胞を移植した腫瘍塊を持つ10匹のマウスに対してFL2が投与され、光照射による治療が行われた。

その結果、1回目の治療後、全マウスで急激に腫瘍塊の大きさが減少し、治療後15日後の大きさの平均は約40mm3となったことが確認されたが、治療30日後、半分の5匹に肉眼的再発が認められたという。これら5匹のマウスの再発した腫瘍塊の大きさは治療63日後に平均381±296mm3となったため、1回目と同じ手法で2回目の治療が行われ、全例で肉眼的に腫瘍の消失が確認されたという。

さらに1回目の治療後約90日、2回目の治療後約30日目に、10匹すべてのマウスの剖検が行われ、病理学的にも腫瘍細胞が完全に消失し、治療部分は正常な皮膚の状態へと回復していることが確認されたとする。

また、治療によりがん細胞が受けた影響を確認するため、光照射10日後で治癒途中の治療部位の病理学的な解析が行われたところ、すべての腫瘍細胞が凝固壊死しており、壊死した腫瘍細胞の周りには免疫系の細胞が集まってきていることが確認されたという。光免疫療法では光増感剤が集積したがん細胞のみが、光照射により特異的に壊死に至っていることが解明されたと研究チームでは説明する。

  • 光活性型抗体ミメティクス製剤(FL2-SiPc)による治療と経過

    光活性型抗体ミメティクス製剤(FL2-SiPc)による治療と経過 (出所:東大Webサイト)

なお、研究チームでは、光免疫療法により腫瘍免疫を誘導し、進行がんの根治の率を高められれば、増加している進行がんの根治に新たな可能性を与えることになるとしており、現在、転移しやすいマウスの腫瘍を用い、光免疫治療と、コロナ禍において高い有効性が証明された修飾RNAを用いた、がんのネオアンチゲンに対するワクチンの併用療法の効果を検討中としているほか、今後は、FL2を用いた皮膚の悪性腫瘍への臨床開発を進めることで、進行がんに対する新たな治療法の誕生につながることが期待されるともしている。