この新たな実験システムを用いて、励起子密度と温度を制御しながら凝縮体の性質についての系統的な評価が行われたところ、パラ励起子系の凝縮も原子系と同様に弱く相互作用するボソンとして扱うことが可能であり、また励起子間には弱い斥力が働いていることが明らかにされたとする。
加えて、励起子系全体に含まれる凝縮体の割合について、従来のボース・アインシュタイン凝縮を記述する理論の予想とは大きく異なる振る舞いも見出されたという。この振る舞いをもたらしている原子系との本質的な違いは、励起子系の場合には、準粒子が結晶の格子系というマクロな熱浴と接触しているという点だという。現実世界に用意された量子系のコヒーレンスやデコヒーレンスの仕組みを探求するという視点からも重要な知見と研究チームでは説明している。
現在、超伝導量子回路や半導体量子ドットなど人工量子系を利用した量子コンピュータの開発が、世界で激化しているが、実世界に用意された人工量子系は少なからず外部環境と接触していることから、非平衡開放系としての性質を排除することは不可能だという。しかし今回の研究成果は、そのような系においても、アインシュタインが予言した、極低温での量子凝縮転移による巨視的量子状態の形成が確かに存在することを実験で確認したものであり、長年にわたる未解決問題を解決したマイルストーン的な成果だという。
また、同時に発見された凝縮体は、環境との相互作用の影響を強く受け、これまで探求されてきた理想モデルに近い系とは質的に異なった様相を示すことが確認されたことから、今回の研究成果により、量子物理学の新たな側面が追求される重要なきっかけとなることが期待されるとしているほか、同時に、実世界で動く量子コンピュータの高度化に向けて不可欠な、エラーの処理や制御の技術を開発する上でも重要な知見を与えることが期待されるとしている。