理化学研究所(理研)、大阪大学(阪大)、山形大学、北海道大学(北大)の4者は9月15日、原子や分子の電子が、外部からの光や電流によって励起された高エネルギーの状態のうち、全電子のスピンが2つずつ互いに反平行の「一重項励起状態」と、全電子のスピンのうち2個だけは平行な「三重項励起状態」のエネルギーが逆転し、後者よりも前者の方が低い発光材料を実現したと発表した。

同成果は、理研 創発物性科学研究センター(CEMS) 創発超分子材料研究チームの相澤直矢基礎科学特別研究員(現・阪大大学院 工学研究科 応用化学専攻助教)、同・夫勇進チームリーダー(山形大大学院 有機材料システム研究科 特任教授兼任)、CEMS 情報変換ソフトマター研究ユニットの宮島大吾ユニットリーダー、北大 創成研究機構 化学反応創成研究拠点の前田理教授(北大大学院 理学研究院 化学部門兼任)らの共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」に掲載された。

有機ELは、電気エネルギーによって有機物を励起状態にし、それが基底状態に戻る際に放出される発光を利用する仕組みとして知られるが、この励起状態の75%を占める三重項励起状態は通常発光しないため、大きなエネルギー損失となる。この課題を解決するために、三重項励起状態と一重項励起のエネルギー差(ΔEST)を室温の熱エネルギーと同等まで小さくすることで、三重項励起状態を発光可能な一重項励起状態に変換する熱活性化遅延蛍光材料が提案され、その研究開発が各所で進められている。

これまでに合成された数多くの有機物の三重項励起状態は、一重項励起状態よりエネルギーが低く、ΔESTは正であることが知られている。しかし、もしΔESTを負にできれば、三重項励起状態を低エネルギーの一重項励起状態に速やかに変換する、理想的な有機EL用発光材料の創出につながると期待されている。

そこで研究チームは今回、理研のスーパーコンピュータ「HOKUSAI Big Waterfall」を用いて負のΔESTを持つ分子の探索を実施。その結果、約3万5000種類の理論計算が実施され、その可能性がある候補分子が見出されたという。