そこで今回は、この力の理論を構築するにあたって、物体表面に入射する分子の過去の経験に注目することにしたとする。
低温物体表面に入射する分子は、高温基板表面で入・反射した後、ほかの分子と衝突することなく低温物体表面に直接入射する分子のグループと、気体中でほかの分子と衝突してから低温物体表面に入射する分子のグループに大別することが可能であり、高温基板で入・反射した分子は基板で加熱され、大きな運動量を持つことから、それ以外の分子と区別し、2つの分子グループによってもたらされる力の理論式が構築された。
この理論式によって見積もられる力と、熱的誘起流れによって物体表面に働く粘性力を重ね合わせて得られる力の表面分布は、シミュレーションによって得られた力の表面分布と良好に一致したという。この一致により今回の理論の正しさが証明されたと研究チームでは説明する。
加えて、理論を構築した際の考え方から、高温のノコギリ歯状の基板表面で反射された高エネルギー分子がほかの分子と衝突することなく、大きな運動量を持ったまま低温物体の表面に入射することが接線方向クヌッセン力を引き起こす大きな要因であることも判明したという。
なお、今回の研究成果により、クヌッセン力の現象の理解が進み、より強い力を効率よく得るための方法や、最適な表面形状についての研究が今後進展することが期待されると研究チームでは説明しているほか、この現象を利用すれば、画期的な装置の開発も可能になるとしている。たとえば、二重円筒の内側円筒の外表面に微細な表面構造を施して、加熱してやると、矢印の方向に内側円筒が回転するモーターとして機能するようになる。これは、エンジンのような複雑な機構なしに簡単に熱から仕事を取り出すことが可能になることを意味するという。
マイクロマシンのような微細な機械を動かすために、エンジンや電気モーターのような機構を作り込むことは難しいが、回転軸表面を微細加工するだけなら比較的容易であることから、この現象は小さな機械要素を駆動するマイクロマシンやセンサの分野での応用が期待できるという。