日本原子力研究開発機構(原子力機構)、東京大学(東大)、北海道大学(北大)、大阪大学(阪大)の4者は8月31日、1原子分の厚みしかない炭素のシート状ナノ材料であるグラフェン膜を用いて、水素(H)と重水素(D)を分離できることを示し、またその分離機構を明らかにすることにも成功したと発表した。

同成果は、原子力機構 先端基礎研究センター 表面界面科学研究グループの保田諭研究主幹、同・福谷克之グループリーダー(東大 生産技術研究所 教授兼任)、北大大学院 工学研究院の松島永佳准教授、阪大大学院 工学研究科のウィルソン・アジェリコ・ディニョ准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行するナノサイエンスとナノテクノロジーに関する全般を扱う学術誌「ACS Nano」に掲載された。

陽子1個からなる水素の原子核に中性子が1個加わると、水素の安定同位体の重水素となる。重水素は、電子機器に含まれる半導体集積回路の高耐久化や、5G/IoT情報化社会に必須の光ファイバーの伝搬能力の向上、薬用効果を長くする重水素標識医薬品の開発、次世代の発電施設の核融合用燃料(建設中の国際熱核融合実験炉「ITER」でも、重水素-三重水素反応の核融合が採用されることになっている)として不可欠な材料とされている。

重水素ガス(D2)の製造法の1つに、水素ガス(H2)とD2の混合ガスからD2を分離する「深冷蒸留法」が知られている。しかし、この手法は水素が液体となるような-250℃といった極低温が必要であること、水素と重水素を分ける能力であるH/D分離能が低いため製造コストが高いといった課題があり、新しい動作原理による分離材料とデバイスの開発が求められていた。

こうした背景から、近年注目されているのが、1原子の厚みしかない炭素原子が六角形に並んだシート状ナノ材料であるグラフェン膜だという。同膜は、常温で重水素イオンよりも水素イオンをより多く通す性質を持ち、高いH/D分離能を有するため、常温で動作し、高H/D分離能を持つデバイスに利用するための研究が続けられているという。

しかしそうした多くの研究にも関わらず、グラフェン膜のH/D分離能を示す実験的確証が得られていなかったという。しかも、分離メカニズムについても良く分かっていなかったという。そこで研究チームは今回、実験および理論の両アプローチにより、グラフェン膜のH/D分離能の有無を明らかにし、そのメカニズムの解明を試みることにしたとする。