ルネサスエレクトロニクスは8月30日、xEV(電動車)向けのインバータ用パワー半導体となるSi(シリコン)IGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)の新世代製品の開発、およびその最初の製品となる750V耐圧、300A品のサンプル出荷の開始を発表した。

ルネサスは今般の発表に際し、同社武蔵事業所にて、新製品のIGBTを使ったxEV向けインバータソリューションの紹介と、それらを実際に搭載したxEVの実車デモンストレーションを行う記者発表会を開催した。

  • 今回ルネサスが発表した新世代IGBTのウェハ

    今回ルネサスが発表した新世代IGBTのウェハ

2024年には甲府工場での本格量産開始へ

今後見込まれるxEV市場の急拡大に伴い、車載用パワー半導体の中長期的な市場拡大に対する期待が高まっている。中でも、xEV向けパワー半導体において従来から多くの割合を占めるIGBTは、今後も需要量の増加が予想される。

この流れを受けルネサスは、IGBTの新世代プロセス(AE5)製品を開発。AE5は、現行の量産プロセス製品(AE4)に比べ電力損失を約10%改善し、また破壊耐量(壊れにくさ)を維持したまま約10%の小型化も実現したとしている。

  • IGBT新製品の紹介資料

    IGBT新製品の紹介資料(提供:ルネサスエレクトロニクス)

ルネサスの技術担当者によると、パワー半導体においては、損失の低減と破壊耐量の高さはトレードオフの関係にあるため、両面の向上は難易度が高いという。だが同社は、セルピッチ(トレンチの間隔)を縮小することでオン電圧を低下させ、電力損失の低減とチップの小型化を同時に実現したとのことだ。

  • AE3からAE5までのセル構造における技術開発

    AE3からAE5までのセル構造における技術開発(提供:ルネサスエレクトロニクス)

AE5は、2023年上期より同社那珂工場の200mmウェハラインを利用して生産し、その後300mmウェハでの生産へ移行する見込みだという。また2024年上期以降は、再稼働に向けて900億円規模の設備投資を行う甲府工場の300mmラインで本格的な量産を行う予定とのことだ。その甲府工場では、車載用パワー半導体に加え、チャージャーなどに向けた産業用IGBTも生産予定だとしている。

IGBTを組み込んだインバータソリューションを提供

ルネサスは、IGBTをマイコンやパワーマネジメントIC(PMIC)などと共に組み込んだハードウェア設計のターンキーソリューションや、実際にハードウェア化した「xEV向けインバータキット」も提供している。今回の発表会では、同社のソリューションサービスについても説明された。

  • AE5を組み込んだxEV向けインバータキット

    AE5を組み込んだxEV向けインバータキット

インバータ用モデルやソフトウェアの提供により、顧客はシステムレベルで発生する不具合を早期に検出することができるため、設計開発の効率化が可能だという。ルネサスの試算では、ターンキーソリューションの提供により、開発期間を最大で2年程度短縮可能だとしている。

また、ルネサスは、100kW級のインバータ評価を行うダイナモメータを武蔵事業所内に設置しており、実車レベルの出力によるシステム性能評価も行っているという。

  • ダイナモメータを使用したインバータの性能評価も実演された

    ダイナモメータを使用したインバータの性能評価も実演された

記者発表会に登壇したルネサスの帰山隼一氏によると、これらのソリューション提供や性能評価設備により、xEV開発への参入障壁を低くできるため、新興市場として注目される中国やインドをメインターゲットとして販路拡大を目指すとのことだ。