今回の研究では、宇宙と同様の状況を再現するため、十分広い検査領域を確保して、装置内に一様な窒素ガス(5Torr=5mmHG)が充填され、一様で強い磁場(約4T)を印加。この状態でターゲットのアルミ板にレーザー(2.8kJ)を照射すると、プラズマ化したアルミの爆風が広がり、この爆風がプラズマ化した周囲の窒素ガス(窒素プラズマ)を圧縮することで衝撃波が形成されるという。

この衝撃波生成法は研究チーム独自のもので、これまで提案されている衝撃波生成法に比べて、衝撃波のパラメータを精度よく測ることができる点で優れているとする。激光XII号レーザーを用いた一連の研究では、窒素プラズマが次第に圧縮されていく様子に加えて、十分な圧縮が起こり衝撃波が形成されていく様子を捉えることにも成功したという。また、実験で捉えられた衝撃波の形成過程の様子が、ミクロ構造の特徴を含めて数値シミュレーションの結果と整合することも示されたとしている。

  • フレアに伴って宇宙空間を伝播する宇宙プラズマ衝撃波

    (左上)フレアに伴って宇宙空間を伝播する宇宙プラズマ衝撃波 (C)SOHO ESA/NASA。(右上)激光XII号レーザーのレーザー照射時の実験チャンバー。アルミとレーザーの相互作用で生じた放射光が捉えられており、この放射光が、周囲の窒素ガスを瞬時にプラズマ化する。(左下)実験概略図。アルミ板ターゲットにレーザーが照射され、アルミプラズマの爆風が生成される。これが一様に磁場のかかった周囲の窒素プラズマを圧縮して衝撃波が生成される。(右下)衝撃波が生成され伝搬していく様子が観測された (出所:九大および阪大プレスリリースPDF)

なお、研究チームでは、宇宙で見られるような十分に発達した衝撃波を実験室に生成するため、今後はより広い検査領域を確保し、長時間にわたって衝撃波の伝搬を追跡することが重要になるとする。プラズマはイオンと電子から構成されているので、主に電子の運動が関係する構造と、イオンの特徴的な運動に起因する構造が現れると考えられているという。そのため研究チームではまず、イオンスケールの構造の解明に取り組む予定としている。

  • 天の川銀河と宇宙線軌道の想像図

    (左上)天の川銀河と宇宙線軌道(黄色線)の想像図 (C)ESA (左下)超新星残骸「カシオペヤ座A」 (C)NASA/CXC/SAO。(中央)実験により、プラズマからの発光で捉えた衝撃波の形成過程。発光強度のピーク位置(縦実線)が時間とともに移動。ピークの前面(右側)に「フット」が形成されており、その空間サイズが時間とともに変化している。(右)数値シミュレーションで得られた電子密度の時空間変化。電子密度のピーク位置の移動とフットの空間サイズの変化は実験同様 (出所:九大プレスリリースPDF)

また、宇宙線がなぜ観測されているようなエネルギー分布を示すのか、最終的な宇宙線の生成効率は何によって決まっているのか、それを解明するには、衝撃波近傍で宇宙線の種となる粒子がどれほど作られるのかを理解することが鍵だとされている。そのため今後は、種となる粒子の生成に関係する衝撃波の構造の解明に向けた研究が進むことが考えられるともしている。