まずコロニー型微化石では、複数の細胞が塊状に共存する仕組みが、この時点ですでに成立していたことを示しているという。コロニー形成は、個々の細胞が独立して存在する従来型微化石と明確に異なり、“共生”という次の進化に向けた変化の始まりと見ることができると研究チームではしている。
楕円型微化石は、その形態的特徴から現代のシアノバクテリア「Akinete」が作る休眠細胞に類するものと判断されたとする。シアノバクテリアは温度や日光、栄養不足など、環境ストレスにさらされた時に特定の細胞に栄養を集中させ休眠状態に入る。つまりAkinete様微化石の発見は、当時の原核生物がすでに現代の生物と同様の生存戦略を採っていたことを示すという。
栄養を細胞内部に溜め込む仕組みは、細胞組織内包型微化石としても同様に現れている。これらの発見は、急激な環境の変動が予想されている当時の海洋において、原核生物が環境に対応および進化した痕跡と見ることができるという。
有尾型、トゲ型微化石に見られる突起構造は、運動性や栄養獲得範囲の拡大、ほかの個体との栄養授受に有利に働くと考えられ、高度に形態を進化させた真核生物の特徴に当てはまるとした。ただし、サイズや細胞膜の特徴が現在の真核生物の定義に当てはまらないため、これらを「真核生物の微化石」とは断定できないという。とはいえ、原核生物がこの時代までに、すでに機能面で真核生物に類する進化を遂げていたことが示される結果となったとする。
この時代にこうした多様な進化が起きた理由について研究チームでは、ガンフリント層堆積当時は全球的に火成活動が活発化しており、地殻変動により頻繁な海水準の変動が起こっていたことがあるのと同時に、地球表層の酸素濃度が急増した後の時期でもあり、風化による大陸から海洋へ栄養塩の供給量が高まっていたことも重要だとする。
また、過去の研究から、この時代の海水温は45度を超えていたと見積もられており、ストロマトライトが形成されるような浅瀬では、蒸発により海水溶存成分の濃度が高まっていたことが予想されるという。研究チームは、こうした環境的な特異性が当時の生命の進化を促したと推測しているとしており、今回の多様な形態の微化石は、こうした環境背景の中、原核生物が形態を多様化させ、真核生物への進化の準備をこの時代に始めていた痕跡と考えられるとしている。
なお、今回の発見は、生命進化史上重要な、原核生物から真核生物への進化の時期や要因のヒントとなる直接的証拠となることから、研究チームでは地学的意義のみならず、生命科学や進化生物学など、関連分野研究へも波及的に新たな知見をもたらすことが期待されるとしている。