その結果、ファーストスター形成に大きな影響を及ぼす、新たな磁場増幅機構が発見されることとなったという。

  • 流体と磁気流体のシミュレーション比較

    流体(左)と磁気流体(右)のシミュレーション比較。画像は計算終了時のもので、原始星形成後1000年が経過した、赤道面における密度分布 (出所:九大プレスリリースPDF)

この機構は、誕生間もない時期に自転により、ファーストスターに突き刺さる磁力線が巻き上げられることで磁場が強まるところから始まり、その後、星周ガスの回転によって増幅した磁場が外側へと伝搬することで、強磁場領域が徐々に拡大。初期宇宙の磁場強度は、現在の宇宙と比べて10桁以上も低い、極めて微弱なものだったが、ファーストスター自身や星周ガスの回転運動によって、指数関数的に15桁ほど増幅するという結果が得られたという。

  • 磁場強度分布

    原始星形成時(左)、10年後(中央)、1000年後(右)の磁場強度分布。まず高密度領域で磁場強度が15桁にもわたり指数関数的に増幅し、時間が経過すると共に強磁場は低密度領域(星形成領域の外側)へと広がっていく (出所:九大プレスリリースPDF)

この新たな強磁場は、磁気ブレーキ効果によってファーストスターの星周ガスの回転を弱めることとなる。これまでのシミュレーションでは、この減速効果がないために星周ガスの回転が速いままで、星周円盤が分裂して複数の小質量ファーストスターが同時に誕生するという結果が得られていたとするものの、回転が弱まれば円盤分裂が抑制されるため、大質量ファーストスターが単独で誕生するという結果が得られたとする。さらに、このような大質量ファーストスターは、超新星爆発後に大質量(ファースト)ブラックホールになることが考えられるともしている。

小質量ファーストスターの場合、寿命は138億年以上と推定されている。それが正しければ、現在の天の川銀河にも少なくとも1つぐらいは存在していてもよさそうであるが、ファーストスターのような、ほぼ水素とヘリウムのみで構成される「種族III」の星はこれまでのところ1つも発見されていないという。

それに対し、ファーストスターが大質量なのであれば、恒星は質量が大きければ大きいほど短命であるため、現在の天の川銀河に残っていなくて当然と考えられるようになる。大質量であることは、発見できないという観測的問題の解決にもつながると研究チームでは説明している。

なお、今回の研究成果は、ファーストスター形成における磁気流体効果の重要性が明確にされ、形成シナリオの再構築を促すものとなるとしているほか、研究チームでは、今回発見した磁場増幅メカニズムが、初期宇宙におけるほかの天体・大質量ブラックホールにおいても起きることを確認しているという。今後は星形成過程の物理条件を変え、今回発見した影響がどこまで普遍的なものかを検証するとしている。