そこで今回の研究では、直径33nmの超常磁性磁気トンネル接合が作製された。エネルギー極小が消失する磁場および電流を調べる実験手法と、磁場および電流が印加された際のエネルギー障壁を調べる実験手法により、反転指数を実験で決定することを目指したという。
前者の測定手法は、エネルギー障壁が大きい磁気メモリ向けの磁性体に主に用いられ、後者の測定手法は、エネルギー障壁が小さい超常磁性体に適用することが可能だという。これらの測定手法を1つの素子に対して組み合わせたことで、磁気エネルギーの磁化角度依存性が磁場および電流により変化する様子が詳細に明らかにされた。
特に、平面のグラフに磁場や電流の軸を導入することで、エネルギーを等高線として表すエネルギー地形が測定され、ここから反転指数が明らかにされた。素子に印加する電圧を変えるとエネルギー障壁が変化し、反転指数が2~1.5の間で変化することが判明。
印加電圧を増やすほど、エネルギー障壁が大きくなることから不揮発性磁気メモリ向けの素子となり、ナノ磁石の反転指数が2となる。印加電圧を小さくするほど、エネルギー障壁を低減させた確率コンピューティング向け素子となり、反転指数が1.5なることが確認された。
また、グラフ化すると、場と電流による反転指数が常にほぼ同じ値になることが見て取れ、これについて研究チームでは、磁化方向にとって、磁場と電流がエネルギー障壁に対して同質の作用を及ぼすことを意味していると説明している。
なお、今回の研究成果により、たとえば不揮発性MRAMの制御の高効率化や、その反転機構をより詳細に解明することが可能になるという。また、超常磁性体を用いたスピントロニクス確率論的コンピューティングにおいては、その設計において今回の数学的な表式の確立は必要不可欠であり、今後の開発に重要な役割を果たすことになるとしている。
さらに、応用研究にとって有意義な研究結果が得られたことに加え、素子の反転指数は数学や物理学の理論分野である「分岐理論」によって解釈可能であることも新たにわかったという。分岐理論によれば、反転指数が1つの素子で変化する現象は珍しく、さまざまな理論研究を実証する舞台として、スピントロニクス素子の利用も期待されるとしている。