実証実験で見えてきた社会実装への大きな課題

同社はこれまで、数カ所でNyokkeyの実証実験を行ってきた。藤田医科大学病院では、検体配送や見回りといった業務を実施。羽田イノベーションシティの「AI_SCAPE」では、飲食物の配膳を担当しており、これは現在も継続している。

  • 藤田医科大学病院での実証実験

    藤田医科大学病院での実証実験

  • a羽田イノベーションシティ「AI_SCAPE」での実証実験

    羽田イノベーションシティ「AI_SCAPE」での実証実験

掃部氏によると、これらの実証実験の経験から強く見えてきたのは、人間環境の「千差万別さ」だったという。

たとえば、ドア1つとっても、ロボットにとっては難しかった。人間であれば、どんなドアでも、特に意識することなく、簡単に開けて通ることができる。しかし、実際にロボットにやらせようとしたところ、部屋ごとにドアの設計や固さなどが微妙に違っていた。しかも応接室のドアなどは重く、片手で開けられないという問題もあった。

Nyokkeyは、まず右手でドアノブを回し、ドアを少し開けてから、左手を押し当てて、前進する力で全開するという、人間っぽい動作によって、この重い応接室のドア開けを実現した。しかし、今回はまず6部屋に対応させたが、実際に社会で使おうとすれば、さらに様々なドアがある。この全てに対応させるのは、簡単ではないだろう。

Nyokkeyのドア開け動作。両腕を使うことで実現した

ただその一方で、開発者側が努力するだけでなく、サービスを受ける側の理解や歩み寄りも必要ではないか、ということも感じたという。ロボットが完全に人間と同じような仕事をするのはまだ難しい。完全を求められると、導入できる現場がかなり限られてしまうが、人間側がある程度ロボットに合わせられれば、使えるケースは増える。

たとえば、今回のパントリーサービスでも、Nyokkeyは飲み物を室内まで運ぶものの、来客1人1人のところに置くのは人間が行っている。技術的に、やろうと思えば不可能ではないだろうが、もしこぼしたりしたら大変なので、そこは人間に任せた。こういう「割り切り」は、様々な現場で発生するだろう。

  • 飲み物は専用のトレーに格納して運んでいる

    飲み物は専用のトレーに格納して運んでいる

今回の実証実験の狙いの1つは、ドア開けを伴う配送業務という、技術的な検証である。しかし、もう1つは、同社自身がサービスを受ける立場になることにあったという。自らサービスを試せば、気づいた点をすぐ開発にフィードバックできる。このサイクルを早め、社会実装を進めるには、開発拠点である明石工場で試すのが最適というわけだ。

パントリーサービスを提供しているNyokkeyの一連の動作