東京大学 生産技術研究所(東大生研)は8月8日、液体の結晶化について分子動力学シミュレーションに新たな工夫を施して、結晶前駆体が結晶核形成および結晶成長に与える影響について調べたところ、過冷却液体中の結晶前駆体構造を減少させると、結晶核形成が抑制されるばかりでなく、結晶成長も遅くなるという、古典的な結晶成長理論に重要な修正を迫る新たな現象を見出したことを発表した。
また結晶成長過程において、結晶・液体界面に形成される結晶前駆体の存在が鍵を握っていることが明らかになったことも併せて発表された。
同成果は、東大 生産技術研究所(東大生研)の田中肇 教授(研究開始当時。現・東大名誉教授/東大 先端科学技術研究センター シニアプログラムアドバイザー(特任研究員))、同・フー・ユアンチャオ 日本学術振興会 外国人特別研究員(研究当時。現・米イェール大学 研究員)らの研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。
液体を融点以下の温度の過冷却状態にしておくと、一定時間経過後に結晶核が形成され、その後に結晶が成長していく。この結晶の誕生と成長は、自然現象のみならず、応用面でも重要な問題とされてきた。
この現象は、これまで古典的な結晶化理論によって説明されると考えられてきたが、10年ほど前、結晶化しやすい物質の場合、過冷却液体中には結晶の構造と同じような対称性を持つ結晶前駆体が、熱的なゆらぎとしてできたり消えたりしていることが報告されるなど、近年、そうした認識が変わりつつあるという。
結晶前駆体は、結晶の対称性と近い構造を持つため、結晶前駆体中に結晶核ができると結晶との界面エネルギーが低くなるため、前駆体中に結晶核が生まれる可能性が高くなること、結晶前駆体が形成されやすい物質においては、結晶核形成が容易に起きることなどが解明されてきたというが、このような結晶前駆体構造が、結晶成長にどのような影響を与えるのかは未解明のままであったともする。
そこで研究チームは今回、分子動力学シミュレーションに新たな工夫を加えることで、その未解明の問題に挑むことにしたという。