そして夏目特任教授らの研究チームは、そのがん特異的抗体の遺伝子配列の一部と、がん細胞を攻撃するT細胞の受容体に関する遺伝子の一部をハイブリッドにした、人工的なT細胞であるCAR-T細胞を作出することに成功。その人工免疫細胞を実験マウスの全身に注入したところ、膠芽腫の細胞だけを正確に攻撃することが確認できたという。
また、口唇ヘルペスや角膜ヘルペスの原因となるヘルペスウイルスにも注目。がん細胞に感染することで死滅させてくれるという、非常に有益な一面も併せ持っていることから、藤堂教授ら東大の研究チームが人工的に改変して作製したヘルペスウイルスG47Δ(G47Δは、2021年に世界で初めて保険承認された新しい脳腫瘍治療薬)を用いたマウスによる実験を実施。具体的には、マウスに対してCAR-T細胞療法に加えてG47Δも投与したところ、CAR-T細胞療法単独よりも、腫瘍の成長が抑制されることが確認され、実験マウスの生存期間を延長させることが確認されたとするほか、今回の実験では副作用は確認されず、高い安全性も確認されたとする。
なお、研究チームは今後、臨床試験での応用を目標に、ヒトへの安全性を十分に検討する方針としているほか、CAR-T細胞療法とウイルス療法の併用療法がCAR-T細胞療法の効果を強めるという結果が得られたことから、悪性脳腫瘍である膠芽腫の新規治療法が期待されるとしており、今後、この併用療法の実現に向けてさらなる免疫学的メカニズムの解明が必要と考えられるとしている。