京都大学(京大)医学研究科の石見拓教授、同大学学生総合支援機構の降籏隆二准教授、OKI、京大発ベンチャーのヘルステック研究所は7月26日、共同でオンライン記者会見を開催。不眠症の認知行動療法(CBT-I)を応用したスマートフォン向けアプリケーションとして「睡眠プロンプトアプリケーション(SPA)」を開発し、不眠に対する有効性を検証したことを発表した。
同研究内容は、2022年7月25日に国際学術誌「Journal of Medical Internet Research」にオンライン掲載された。
ヘルスケア領域での活用が広がるPHR
近年、ウェアラブルデバイスや遠隔医療技術を活用したデジタルヘルスが発展する中、個人の健康情報などを記録するパーソナルヘルスレコード(PHR)を活用した健康維持・増進が注目されている。
PHRを自らの意志で活用し、データに基づいて健康につなげる社会の構築を目指して創設された京大発ベンチャーのヘルステック研究所は、そのサービスとして生涯型PHRアプリ「健康日記」を提供している。
石見教授は「PHRを活用したヘルスケアサービスについては、効果に関する科学的エビデンスはほとんどない」としており、「その証拠を1つずつ積み上げるためのロールモデルとして今回の実証試験を行った」と語った。
スマホアプリによる睡眠改善の需要が拡大
石見教授らの研究グループは、健康問題の中でも特に睡眠の問題に着目し、実証試験を行った。
労働者の健康における重要な問題として高頻度に見られる不眠問題は、その治療法としてCBT-Iの有効性が示されている。しかし、CBT-Iに関する専門家が不足していることから、スマートフォンアプリケーションを活用したCBT-Iプログラムに対する需要があるという。
過去にもインターネットを介したCBT-Iプログラムは開発されており、対面での専門家による治療と同等の効果が得られることが示されているものの、症状が軽度の不眠を対象に含むヘルスケア領域での利用を想定した臨床試験においては、その有効性が十分に検討されていなかった。
行動変容技術を活用したアプリを共同開発
同実証試験に際し、京大、OKI、ヘルステック研究所は、プロンプトと呼ばれる短いメッセージを利用者が受容しやすいタイミングで送信することで、睡眠改善に望ましい行動を誘発する行動変容技術を用い、CBT-Iを応用した睡眠プロンプトアプリケーション(SPA)を3者共同で開発した。
行動変容技術は、対象者の日常状況の検出により支援内容やタイミングを決定し、タイムリーに情報介入する技術で、金銭的インセンティブによらない行動変容の促進などが特徴だ。
SPAは、京大が作成したメッセージ規則を基に、OKIの行動変容エンジンによって対象者に対し適切なメッセージを抽出し、ヘルステック研究所のアプリである健康日記に配信する仕組み。その利用に際しては、利用者の性別や年齢などの初回データと、日々の睡眠目標や睡眠実況(アプリ内では「睡眠日誌」と呼ばれる)などの時系列データを入力することで、パーソナライズされたプロンプトが送信されるという。