詳細なホルモンに対する検査が行われたところ、脳の一部である「視床下部-下垂体系」が障害されることにより、副腎皮質ホルモンに加えて、成長ホルモンの分泌が低下していることを確認。当該患者は副腎皮質ホルモンの補充治療を継続して行っていたが、次第にホルモン分泌は回復し、発症から1年半後にはホルモン分泌が正常化し、ホルモン補充が不要になったという。

  • 視床下部-下垂体系の模式図

    ホルモン分泌の司令塔としてさまざまな生命活動の調節に中心的な役割を果たしている、視床下部-下垂体系の模式図。(左)副腎皮質ホルモンが分泌されると、ストレスに打ち勝って頑張れる。(右)SARS-CoV-2の感染により、視床下部-下垂体系がダメージを受けた結果、同ホルモンの分泌が低下してしまうと、ストレスに打ち勝てなくなる (出所:神戸大プレスリリースPDF)

副腎皮質ホルモンは、人体に身体的・精神的なストレスが加わった際に分泌され、「ストレスに打ち勝って頑張る」ことを促すものとされている。そのため、副腎皮質ホルモンの分泌が低下していると、「頑張りがきかない」状態になっているとされる。

また、副腎皮質ホルモンの分泌が高度に障害されると、生命維持に支障をきたすような重い異常が起こるものの、障害が軽度な場合は、疲れやすい、力が出にくい、落ち込んで気分が優れない、といった特定の病気とは結びつけにくい症状(非特異的症状)しか起こらないため、(副腎皮質ホルモン分泌低下が)日常診療で見逃されることもあるという。

研究チームによると、これまでの研究から、副腎皮質ホルモン分泌低下が新型コロナで起こる頻度は16.2%という報告もあり、今回のような例は決して稀とはいえないという。また、新型コロナの後遺症の症状は、副腎皮質ホルモン分泌低下の症状と似たものも多いことを踏まえると、新型コロナ後遺症の中に、見逃されている軽症の副腎皮質ホルモン分泌低下が存在する可能性もあるとしている。

なお、新型コロナの後遺症がどれ程度の間にわたって続くのかは現時点では不明であり、終わりの見えない中で後遺症に苦しんでいる人々にとって、今回の副腎皮質ホルモン分泌障害の経過が報告されたことは意義深いと研究チームでは説明しており、今後、全国の感染症指定病院などと協力して、後遺症を訴える新型コロナ患者に対するホルモン分泌状態の調査を行っていく計画としている。