このPolyFでは、“幹”部分のポリマーは粘着剤に利用されるような、互いに集まろうとする分子間相互作用が強いポリマーとなる。そのため、ポリマー同士が集まる結果、分子間相互作用の弱いフッ素成分は弾かれて寄せ集められるために、ポリマーがフッ素成分によって架橋され、結果的にネットワーク構造が形成される。
ポリマーに少量付加したフッ素成分が集まって架橋部位を形成しているので、従来のマテリアルデザインと同様に見えるかもしれないが、集まる力が強いのはポリマーの方なので、まさに従来の「うら返し」だといえるのだという。
このようなうら返し構造では、エラストマーの力学強度はネットワーク構造が担うが、一方で、自己修復速度はポリマー同士の分子間相互作用に依存するため、PolyFでは力学強度と自己修復速度の間におけるトレードオフの関係からの脱却が実現されたとする。
PolyFは2MPa程度の破断応力を示し、比較的高い力学強度を持つことが確認されたほか、切断したPolyFは室温で瞬時に接合し、15分程度で元通りのパフォーマンスに回復することも確認されたという。これは、マトリックスを形成しているポリマー同士の分子間相互作用によって、自己修復が起こるためだと考えられるという。さらにPolyFは、水中、高濃度の酸やアルカリ水溶液中でも自己修復することも確認されたという。
一方、フッ素成分がエラストマーの表面を覆って保護するため、切断した傷口同士以外では、エラストマーの接合は起こらないとする。これは、実用化の観点から重要な性質だと研究チームでは説明している。
またPolyFは、フッ素成分のおかげでテフロンとの親和性が高く、一般的には接着が困難なテフロンを接着することも可能だという。たとえば、PolyFで接着したテフロンのプレートは、約10kgの重りを難なく吊り下げることができるという。
自己修復機能を持ったポリマー材料に関する研究は、世界中で盛んに行われている一方で、実用化に至っているものはごく少数に限られており、実用化にあたっては、なるべく単純なマテリアルデザインによって効果的な機能を発現することが重要だと考えられるとされている。今回のマテリアルデザインは単純かつ合成も容易に行うことが可能であることから、研究チームでは現在、電気製品や雑貨のコーティング材料などへの実用化を目指しつつ、さらに優れた自己修復材料についての研究を行っているとしている。