デンソーは7月7日、同社が行う「食」分野への取り組みに関する説明会をオンラインで開催。生産・流通・消費の3領域について、業界における現状の課題を提示するとともに、それらに対してデンソーが提供するソリューションについて紹介した。
オンライン説明会には、同社フードバリューチェーン事業推進部の清水修氏が登壇した。
デンソーが「食」分野に参入
自動車業界を中心に事業を展開するデンソーは、「交通事故死亡者ゼロ」「快適空間」「働く人の支援」という3つの目標を掲げ、社会課題の解決を目指している。
そのうち「働く人の支援」について、将来的な労働人口の減少が懸念される中、労働環境の過酷化を防ぐ対策が必要とされている。清水氏によれば、このような課題は製造現場に限らず物流業界や農業においても共通の課題となっているとのことだ。
そこで同社は、人々の生活で必要不可欠な「食」の領域に焦点を当て、自動車業界で培った技術やノウハウを活用することで「安心」を提供するため、フードバリューチェーン事業を開始するに至ったという。今回の説明会では、同事業における課題や取り組みについて「生産」「流通」「消費」の3領域に分類して説明された。
工場のノウハウを生かした農業生産へ
デンソーは、食分野における「生産」の方法として農業に着目。中でも、農業用ハウスを使用し野菜の生産を行う施設園芸について、屋内での生産や安定した稼働などの点で、同社がノウハウを持つ工場生産との類似点を見出し、「施設園芸現場の工場化による農業の活性化」を目指す取り組みを開始したという。
しかし類似点があるとはいえ農業と工業では異なる部分も多く、特に最大数の生産を目指す農業と需要に合わせた生産調整を行う工業では、考え方に大きな隔たりがあったとのことだ。
これを受けデンソーは、施設園芸の現場に工業の考え方を取り入れることで、農業の新しい在り方を追求し市場創造につなげるとしている。
実際に国内では、浅井農園とデンソーの合弁会社「アグリッド」での大規模施設園芸によるトマト生産や、静岡県の中規模施設園芸における換気システムの導入など、技術開発や実証試験が開始されている。また、先進的な農業技術を持つオランダのセルトンとも資本提携を行い合弁会社を設立するなど、グローバルにも事業を進めているという。
清水氏によると、デンソーはこれらの取り組みを通じて、DXによる働き手の創出やカーボンニュートラルに貢献するGX(グリーントランスフォーメーション)を推進し、「儲かり働きやすい農業」の構築を目指すとした。
コロナ禍でニーズが多様化する食品運送
清水氏は食品の運送について、「技術の発展やコロナ禍の影響で起こった暮らしや食生活の変化により、従来の幹線輸送による人口密集地への一括配送だけではニーズに対応できない」とし、「現在は、自宅までの配達や少量での輸送など配送へのニーズが多様化しており、特に消費者までのラストマイルにおけるニーズが増加している」と説明した。
輸送の領域を強みとするデンソーはこれまで、大規模な幹線輸送用トラックに最適化した大型車両用冷凍機を提供してきた。しかし清水氏によれば、今後は効率的な大規模輸送のみではなく、最終的に消費者へ適切な形で届けることの重要性が増すとのことだ。
この流れを受けデンソーは、小型モバイル冷凍機「D-mobico」を開発。消費者に合わせた自家用車やバイクを活用した配送により、消費者側はもちろん、運送業者にとっても柔軟なサービス提供が可能な環境を構築できるとしている。