800Vシステム電力ソリューションの設計考慮事項
一般的に、EV内に高電圧でサブシステムに接続するためには、高電圧から低電圧の電力供給が必要です。800Vへの高電圧化には、非常に高い定格絶縁電圧が必要になります。
電気自動車のバッテリー パックはシリアル/パラレルで接続された多数の個別セルで構成されています。各セルの動作電圧は3.1V~4.2Vです。定格800Vシステムには約198個のセルが直列接続されているので、バッテリー パック全体の電圧は610V~835Vになります。回生ブレーキ中の一般的な電圧上昇の20V~30Vを付加すると、最大電圧は865Vとなります。電源供給内部スイッチはこの電圧よりも大幅に高い定格にする必要があります。フライバック コンバーターを使う場合、150V~200Vが加わるため、スイッチのストレスは1065Vになります。通常、20%のディレーティングを考慮しなければならないため、仕様としては少なくとも1.33kVが必要となります。
もう1つ重要な設計考慮事項としては、通常30V~40Vの低電圧始動が必要な点が挙げられます。自動車の安全システムをまず起動し、すべての制御電子回路が正常に動作しているのを確認してから車を始動しないと、問題が発生する可能性があります。30Vから900V超をまかなう電源供給を設計するのは簡単ではないかもしれません。
新たな高電圧ソリューション
Power Integrations(PI)ではInnoSwitch3-AQファミリーに新しい2種類のAEC-Q100準拠定格1700VのICを追加しました。これら2つの新デバイスは800Vシステム設計の課題を解決し、自動車分野で必要とされる有用な機能を提供し、将来の高電圧設計への道を拓きます。
シンプルなフライバック コンバーター設計にSiCスイッチと、一次側/二次側コントローラーが組み込まれています。InnoSwitch3-AQ ICはFluxLinkで絶縁しているため、二次側コントローラーとして機能します。このような特殊アーキテクチャにより、二次側が一次側に切り替えるタイミングを判断するため、切り替え時間の不正確さのような一般的な欠点がなく同期整流を行うことができ、故障状態をカバーします。
InnoSwitch3-AQは車載アプリケーションにおける安全システムの始動に不可欠な30Vで動作します。ディスクリート ソリューションの場合、30Vの始動を実現するために一次側へのコンポーネント追加が必要なため、コスト増になります。高電圧レールに接続するコンポーネントはすべて複数の故障モードでテストする必要があります。PIの高集積ソリューションはシステムコストの低減をもたらし、テストケースを最大50%削減します。
EVでは部品点数を減らすことが非常に重要です。部品点数を減らすことで部品自体の故障率が低下するだけでなく、はんだ接合部が減少するので信頼性が向上します。基板面積の減少効果はさらに顕著で、軽量化、電力密度の向上、車内スペースの拡大など、EV市場で価値のある特長が実現されます。
InnoSwitch3-AQのICは、独自のアーキテクチャにより、通常では実装できないPCBの絶縁バリアの向かい側に配置することが可能です。実際に、トランスの下に配置することもできます。PCBスペースを取らない設計であるため、設計者にとって大きな違いを生みます。
出力に関する規制が厳しいため、DC-DCコンバーターを設置して追加レールを設ける必要はありません。すでに提供されています。FluxLinkアーキテクチャと±2%のレギュレーションにより、2サイクル スイッチでゼロ負荷から最大負荷までの上昇に応じて電力供給をゼロから最大に高めることができます。そのため、出力コンデンサも小型化することができます。効率が90%以上で放熱が小さいため、外部のヒートシンクが不要です。こうした特長を備えているため、さらなる小型化、省スペース化、部品点数の削減などのメリットをもたらします。
無負荷時の電力消費量はあまり重視されませんが、EVではバッテリーが常に接続されているため、駐車時に自動車バッテリーの消耗につながります。新しいInnoSwitch3-AQは無負荷時の電力消費量を15mW未満に抑えており、空港にいて、自動車に乗り換える際に車が動かないといったトラブルとは無縁になります。
今回新たに50W出力と70W出力のデバイスが追加されたことで、Power IntegrationsのInnoSwitch3-AQファミリーには400V、600V、800V以上を使用したEV設計用ソリューションがそろいました。
著者プロフィール
Peter VaughanPower Integrations
ビジネス開発担当ディレクター