具体的には、PET原料の製造廃水を効率的に処理する産総研が開発した「ラボスケールリアクター」から、複合微生物試料である汚泥を取り出して嫌気性環境を模擬した培養瓶に添加し、BHETまたはDMTを基質として加えて集積培養を実施した後、プロトン-核磁気共鳴(1HNMR)を用いた、BHETとDMTの分解産物の評価が実施された。その結果、どちらも微生物による分解を受けることが確認されたという。
また、培養物内に添加されたBHETとDMTの結晶周辺における顕微鏡観察から、結晶に特異的に付着するスパイラル状の微生物が発見されたことから、これらの微生物が、分解に関与していることが示唆されたともする。
さらに、BHETとDMTの分解機構の解明に向け、培養物に含まれる複合微生物群のショットガンメタゲノム解析を行ったところ、BHETとDMTを分解する可能性のある新しい酵素の存在が確認されたとするほか、これらの酵素は、BHETとDMTを最終的に「テレフタル酸」(TA)にまで分解できることが推定されたという。これらすべての酵素は、スピロヘータ(Spirochaeota)門に属する微生物のゲノム上にコード化されているとする。
加えて、ファーミキューテス(Firmicutes)門に属する系統学的に新しい微生物が、BHETの分解過程で生じるエチレングリコールを酢酸まで分解する代謝経路を持つことが推定されたとするほか、メタノール利用性のメタン生成アーキアが、DMTの分解過程で生じるメタノールからメタンを生成することも判明。これらは、嫌気性生物による廃プラスチック類の除去技術の開発やプラスチック類で汚染された自然環境の浄化につながるものだと研究チームでは説明している。
研究チームでは、今回の研究にて新たに提案されたBHETおよびDMT分解経路と、それを触媒する微生物由来の酵素は、嫌気性微生物の合成化学物質の分解能力を理解する上での重要な発見だとしており、今後は、BHETやDMTだけなく、PETそのものやそのほかのプラスチック類の嫌気性環境における分解性評価を実施することで、自然界に拡散したさまざまなプラスチックの動態を明らかにするとしている。また、BHETやDMTの分解酵素の利用可能性を評価するため、遺伝子発現や酵素発現を行うことで、分解機構のより詳細な解明に取り組んでいくともするほか、これらの微生物学的情報に基づき、新しい処理プロセスを設計し、さまざまな廃プラスチック類を効率的に分解できる環境調和型廃棄物処理プロセスを創出し、バイオエコノミー社会の形成に貢献するともしている。