具体的には、エビの殻から単離されたキチンを基板上に固定し、その観察を水中にてAFMを用いて実施。その結果、基板の広い範囲において、均一な大きさの針状構造を持つキチンのナノ結晶が複数確認されたとする。また、それらのナノ結晶の1つを高分解能にて観察したところ、その表面は分子レベルの凹凸が規則正しく並んだ構造を有することが確認されたとするほか、その表面を3次元AFMを用いて観察したところ、水分子の分布に応じた輝点が、キチンの長鎖方向に沿って整列した層のような構造を形成することが確認されたとする。

  • キチンナノ結晶の3次元AFM観察の模式図

    (A)基板上に固定化された、キチンナノ結晶の3次元AFM観察の模式図。(B)Aキチンナノ結晶の表面のAFM画像。(C)キチン/水界面の3次元AFM画像。(D~F)キチンナノ結晶の長鎖方向に撮影したキチン/水界面の垂直2次元断面図。赤、白、青の楕円は、整然と並んだ水分子分布を示している。青と赤の楕円の領域は、水分子がキチンの水素原子または酸素原子との水素結合によって安定化されている領域。それらの間のコントラストが暗い領域は、水分子がキチン表面と水素結合を作らない領域 (出所:金沢大 NanoLSI Webサイト)

さらに、その構造の詳細な解析に向けてキチン表面上における水分子の構造が、分子動力学法によるシミュレーションにより分析されたところ、水分子がキチンに引き寄せられ、キチン表面を包み込むように水分子が整然とした層を形成することが判明したほか、これら2つの分子の間には強固な化学結合が存在することも確かめられたとする。しかし、その一方で、その層の中には水分子が存在しない部分も見られ、必ずしも均一な構造ではないことも確認されたとしており、これらの結果は、キチンの表面には、水と相互作用する分子としない分子の2種類で構成されていることを示唆したものだと研究チームでは説明しており、このような構造パターンを知ることは、今後、キチンによる水分子との化学反応を検討する上で有用な情報となるとしている。

なお、キチンを用いた機能性ナノ材料を形成するためには、キチンナノ結晶の分子レベルの構造に関する知識をもとに化学処理を行う必要があることから、研究チームでは、今回の研究で得られた知見が、今後の高性能かつ実用性の高いナノ材料開発に活用されることが期待されるとしている。