そうした中で研究チームは、ビスマス(Bi)やSb系光電変換材料の探索とプロセス開発を進め、独自プロセスにより成膜したSbSIやSbSI:Sb2S3複合膜において、優れた光電変換特性(変換効率2.91%)を達成するなどの成果を出してきた。そうした研究の最中、偶然にも光の波長によって異なる出力電圧(開放電圧)を示す現象が発見されたという。「WDPE」と命名されたそれは、既存のモデルに沿わない新たな現象であり、かつ単一素子で色識別ができれば、光センサとしての有用性も示されたとする。
実際に研究で用いられたデバイスからは、照射波長の変化(紫外~可視光)により可逆的に出力電圧が変化することが明らかにされたほか、紫外成分が多くなるにつれ、開放電圧が大きく降下することも確認された。
このような照射波長によるJV特性の変化は過去にないものであるとする一方、従来素子と同様、光強度によって短絡電流値が変化するため、光強度の識別も可能であることから、光の波長と強度の両方を1つの素子で感知することができるとする。
また、紫外から可視域まで連続的に波長を変えた場合、開放電圧の変化幅も連続的に変化することも判明したとのことで、研究チームでは、さまざまな波長の光を見分けられる可能性があると説明している。
さらにWDPEの詳細な機構についての解析も実施。その結果、酸化チタン/SbSI(SbSI:Sb2S3)/有機半導体接合において、短波長光の照射によって接合界面に電荷トラップが一時的に形成されることで、WDPEが発現する機構が見出されたとする。この機構について研究チームは、新たなデバイス駆動原理として興味深い発見だとしている。
なおWDPEについて研究チームでは、短波長光の照射によって素子内でどのような化学変化が起こっているかが明らかになってないとしているほか、波長応答には0.5~数秒の時間が必要であることから、この応答時間を短くすることが課題としており、今後、これらの不明点・課題点を解決していくことで、WDPEの有用性の向上を図りたいとしている。
また、今回の研究で注目されたSbSI系デバイスは、独自の塗布プロセスで簡単に作ることができ、鉛やカドミウムのような毒性の高い元素を含まないため、社会親和性もあるといえるとしているほか、SbSI膜の品質には改善の余地も多く、成膜プロセスの改善により光電変換性能が向上すれば、次世代太陽電池としても期待できるとしている。