2016~2017年のアルマ望遠鏡による同銀河の観測では、最大で直径700mほどの比較的狭い領域にアンテナ群を集中配置させたことで、高感度が実現され、精密な距離測定に成功し、当時の最遠方銀河記録が樹立されたものの、空間解像度はあまりよくなかったという。
そこで今回の観測では、アンテナ配置を最大で直径2.5kmにまで拡大し、結果として空間分解能を2.5倍にまで高めた観測が行われた。その結果、秒速50km(時速18万km)と、天の川銀河と比べると4分の1以下の速度という、弱々しいものであるが回転運動の兆候が捉えたとする。研究チームでは、今回の観測成果について、銀河の回転運動が発達していくその始まりを捉えたことが考えられるとしている。
具体的な観測は2018年10~12月に実施され、2019年初めにはデータが収集されたが、その複雑さのため、解析に2年以上を要したとする。回転速度など、観測結果からさまざまな物理量を導出するために、回転円盤数値モデルを工夫しながら独自に作成したことが、今回の成果につながったとする。この数値モデルプログラムは、世界の研究者に公開する予定だという。
また今回の観測では、MACS1149-JD1の質量についての知見も得られたという。今回の観測から、同銀河の直径は約3000光年と測定され、回転速度と合わせると、その質量は太陽の約10億倍と推定された。これは、以前の研究で同銀河のスペクトルの概形と光度から推定された質量と一致しているという。
これまで、この質量の大半は、観測時点からさらに2~3億年さかのぼった時期に生まれた恒星たちで担われているとされており、今回の観測で求められた回転運動に基づく質量がそれと整合的だったことから、その解釈が改めて確認できたという。これは、MACS1149-JD1は、ビッグバン後2.5億年頃に形成された銀河であり、観測時点(5億年頃)には、その回転円盤を形作り始めた段階にあることが示されたとしている。
なお、今回の成果を呼び水として、同時代のほかの銀河のアルマ望遠鏡観測にも拍車がかかることが考えられると研究チームでは指摘しているほか、2021年末に打ち上げが成功したジェームズウェッブ宇宙望遠鏡を使うことで、今回とは別の波長帯のさらに高空間分解能な観測が可能だとしており、今後、そうした新たな観測が進むことで、誕生直後の若い恒星の分布などが明らかになる可能性があるとしている。また、研究チームも引き続き、銀河形成の全貌解明に挑んでいく予定としている。