その結果、これまで広く用いられてきたスプリットリング共振器型のメタマテリアルでは、THz波が入射するとその電界が四方のメタマテリアルと結合しながら広がり損失が出ていたとするが、ストリップライン型(論文中では「I-design(アイ-デザイン)と表記)のメタマテリアルでは、電界は四方には広がらず、ギャップ部分のみで効率的に増強効果を示すことが確認されたという。

これとマイクロ流路内溶液を近接相互作用させることで、髪の毛の断面5個分ほどの小さなセンササイズで、ピコリットル-アトモルレベルの感度で極微量溶液の溶質濃度の計測が可能なチップの開発に成功したという。

  • 今回開発されたテラヘルツバイオチップによる微量溶液測定の模式図

    (左)今回開発されたテラヘルツバイオチップによる微量溶液測定の模式図。(右)その表面画像 (出所:阪大Webサイト)

計測の一例として、グルコース水溶液を対象としたところ、流路内の85ピコリットルの溶液中のグルコースを472アトモルの感度で検出できたとする。これらは、従来のTHz波による流路を使った測定と比較して、数万分の1以下のサンプル量とセンササイズで、1万倍以上の検出感度だという。

今回の研究成果について研究チームでは、たとえば、わずかな体液中に極微量で存在するがんバイオマーカー、DNA、ウイルス、血中グルコースなどをラベルなしで迅速に検査できるする技術につながるため、がんや糖尿病などの疾病の早期発見につながることが期待されるとしているほか、チップ内で培養中の細胞や組織の変性・変質などの非侵襲評価や、医薬品の標的となるタンパク質の探索・薬効の迅速評価など再生医療や創薬分野における生産プロセスの効率化への貢献も期待されるとしている。

また、急速に発展を続けるマイクロ流体技術との組み合わせも容易なことから、マイクロタスに向けた開発が加速し、新しいバイオチップとしての市場参入にも期待できるとしているほか、近年注目されている下水疫学分野における、下水中の新型コロナウイルス存在実態や水質環境などの調査にも貢献できる可能性があるともしている。