一方で、全国の法人経理のインボイス制度に対する認知度は低いままだ。freeeが5月に実施した調査によると、インボイス制度を理解している経理・財務担当はわずか3割程度にとどまる。また、従業員301名以上の大規模企業では39.7%が理解できているが、不利益を受けやすい従業員20名以下の小規模企業ではわずか25%と、法人規模が小さくなるほど認知度が低下しているのが現状だ。
さらに、理解している経理担当にも知識の偏りがみられる。そもそもインボイス制度は、売上に関するインボイスの発行を行う「売り手」と、仕入れに関するインボイスの受領を行う「買い手」で要件が異なる。
しかし同調査によると、売り手の対応に比べて、肝心の買い手の対応に関する理解度が低いのだ。例えば、「インボイス制度の適格請求書発行事業者になるには税務署に申請が必要」といった売り手の対応については47.3%が理解しているが、「3万円未満の支払いであっても、インボイスの保存をしないと仕入税額控除ができない」といった買い手の対応は21.5%しか理解していない。
この理解の偏りが、多大な負荷が発生するにもかかわらず、経理や財務担当が見落としてしまう3つの落とし穴を生み出すのだ。
発行インボイスの保存
1つ目の落とし穴が、「発行したインボイスの保存」が義務化されることだ。現行の消費税法では、発行した請求書の控えの作成義務はないが、インボイス開始後はその義務が発生する。
さらに2023年12月31日には、猶予措置が終了する「電子保存の義務化」が始まる。2022年1月1日に施行された電子帳簿保存法の改正(改正電帳法)により、電子データで受け取ったもしくは発行したデータを書面に出力して保存することが禁止されるはずだった。
しかし、2021年12月10日に自民・公明両党が取りまとめた2021年度税制改正大綱で、この電子保存の義務化に2年間の猶予が与えられた。22年1月1日からの2年間は、やむを得ない事情があると税務署長が認める場合などは、引き続き紙での保存が容認された。
この猶予が終わってしまうと、PDFで発行した請求書の紙による保存ができなくなってしまう。インボイス制度と合わせて考えると「請求書の控えは必ず作成しなければならず、すべて紙による保存の運用が禁止される」状況になるのだ。
しかし、法人ではない消費者向けのインボイスに関しては電子保存義務化の対象外だ。つまり、PDFで発行しても紙に出力して保存ができる現行のままだ。このややこしさが、落とし穴の原因となっている。
受領インボイスの保存
発行したインボイスの保存の義務化に加えて、「受領したインボイスはすべて保存する義務がある」ことも見落としがちだ。
現行の消費税法では、受領する請求書や領収書、レシートは3万円未満であれば証憑の保存の必要はない。しかしインボイス開始後は、適格請求書であればすべて保存しなければならない。先述したとおり適格請求書とあるが、領収書やレシートも含まれる。
現行では、受領した請求書に不足事項があれば、受け手自ら不足分を追記することができるが、インボイス開始後はそれができなくなる。再交付してもらったり、別の書類で項目を補完してもらったりしなければならない。
さらに、ここにも改正電帳法が絡んでくる。受領したインボイスはすべて保存しなければならず、しかもすべて紙による保存の運用は禁止される。例えば、取引先からメール添付で送られてきた請求書を印刷して紙で保管したり、ECサイトからダウンロードした領収書を印刷して紙で保管したりできなくなる。
記帳パターンの増加
最後の落とし穴が「日々の記帳パターンが増大する」ことだ。先述したインボイス開始後の経過措置を考慮した日々の記帳を考えてみよう。
現行の税区分は標準税率の10%と軽減税率8%であるから、混在する場合も考慮すると請求書のパターンは3種類ある。
しかし、インボイス開始後は、2種類の経過措置(仕入税額相当額の80%:~2026/9/30、50%:2026/10~2029/9)があるので税区分が3倍になり、項目記載に不備がある非適格請求書を考慮すると請求書のパターンは全部で10種類になる。
領収書の場合も考えてみよう。コンビニなどの小売店ではキャッシュレス決済に対応していることも多い。その場合、領収書にはキャッシュレス決済である旨を記載しなければならず、その分領収書の記帳パターンも増える。つまり現行では全部で6種類存在している。
インボイス開始後は、項目記載に不備がある非適格請求書を考慮すると、全部で20種類にまで増えてしまうのだ。
日々の記帳パターンが増えてしまうというのに、企業の請求書の受取方法は非デジタルのままだ。freeeが5月に実施した調査によると、93.1%の企業がいまだに郵送で請求書を受け取っている。手渡し(25.8%)やFAX(21.4%)で受領する文化も根強い。また同調査によると、買い手対応(請求書の受取)のシステム化を進めている企業はわずか12.4%で、約7割が未検討のままだという。
インボイス制度の開始まで1年4カ月を切っている状態にもかかわらず、多くの企業で対応が遅れている。また、適格請求書発行事業者になるためには、2023年3月31日までに登録申請手続きを完了させる必要があり、まさに待ったなしの状態である。
中小企業にとってインボイス制度制度の導入は望ましくない要件ばかりだ。しかし、政府の補助金でバックオフィス領域におけるIT化が実施しやすくなるといったメリットもある。
企業や個人事業主は、同制度をしっかりと把握し、インボイス制度が生み出す3つの落とし穴を事前に埋めておきたいところだ。