具体的には、研究チームは、新鮮で無傷なマタタビはあまり臭わないのに、ネコの舐め噛みにより傷ついた葉が特有の青臭い臭いを放出することに着目。そこで、葉が傷つくと放出される有効成分の量を計測したところ、傷ついた葉からのネペタラクトールとマタタビラクトン類の総放出量は、無傷の葉の10倍以上にも増えることが判明した。
また、有効成分の組成比は、無傷の葉では全体の8割以上がネペタラクトールであるのに対し、傷ついた葉ではネペタラクトールとマタタビラクトン類がおよそ半々になることも判明。これを踏まえ、ネコが舐め噛みすることによる有効成分の放出量と組成比の変化が、マタタビ反応に影響するのかどうかの調査として、無傷の葉と傷ついた葉に含まれる有効成分が化学合成で再現されて同時に提示したところ、ネコは傷ついた葉を再現した方により長い時間反応することが確認されたという。
加えて、ネコは、シソ科のハーブとして知られる「キャットニップ(別名:イヌハッカ)」にもマタタビ反応を示すことから、マタタビとキャットニップの有効成分の比較も実施。その結果、傷ついたマタタビの有効成分は40分の1の量でも、傷ついたキャットニップに匹敵するほど強い活性を示したという。これは、傷ついたマタタビの方が傷ついたキャットニップよりも等量当たりの活性が強いことを意味するという。
研究チームによると、ネコに対するこれらの有効成分の作用機序は未解明だが、ネコに対する活性が強くなるのは、傷ついたマタタビに特有な組成比でネペタラクトールとマタタビラクトン類を混ぜたときだけで、キャットニップのネペタラクトンとマタタビラクトン類を混ぜても活性は強くならないという。これは、マタタビとキャットニップでは、有効成分の量と組成が違うだけでなく、ネコに対する作用の仕方も少し異なっていることを意味する結果といえるとしている。
このほか、マタタビの無傷の葉と傷ついた葉の有効成分を用いて、ヒトスジシマカに対する忌避活性が調べられたところ、どちらの有効成分も蚊を忌避したが、傷ついたマタタビ有効成分の方が低濃度でも早くから蚊を忌避できる即効性があることが判明。この点からもネコによる舐め噛み行動は、マタタビの防虫効果そのものを高めていることが示されたとする。
これらの結果を踏まえ、研究チームでは、ネコはマタタビとキャットニップそれぞれの植物に含まれている蚊の忌避成分を最も効果的に利用できるように、舐め噛みと擦り付けからなる行動様式や有効成分を特異的に受容する嗅覚を獲得してきたと考えられるとしており、この成果は、今後、なぜネコ科動物だけがマタタビ反応を示すようになったのかという、最大の謎を解く手がかりを与えてくれるものだとしている。