東北大学は6月15日、青葉山新キャンパスに建設中の次世代放射光施設では困難なミクロンからサブナノサイズの観測を補完することを目的に、日本電子(JEOL)製の「クライオ電子顕微鏡」を新規に導入し、6月1日より本格稼働を開始させ、併せて学内外に向けた共用を開始したことを発表した。

クライオ電子顕微鏡にAIを搭載し、測定時間の短縮を実現

クライオ電子顕微鏡自体は、同大としては2台目の導入となるが、今回導入されたものは、理化学研究所(理研)と同大が共同で開発した独自のAI制御によってデータの自動測定を可能とするソフトウェア「yoneoLocr」を実装したモデル。ベースはJEOLの最新型となる冷陰極電界放出形クライオ電子顕微鏡「CRYO ARM 300 II(JEM-3300)」で、そこにyoneoLocrを組み合わせることで、AIによる高性能化を果たしたという。

  • 国産クライオ電子顕微鏡の進化の系譜

    国産クライオ電子顕微鏡の進化の系譜 (出所:東北大発表資料)

具体的には、画像データを取得する際の撮影位置合わせを特徴判定による自動制御とすることで、失敗をほぼなくし、かつ自動で取得できるようにしたほか、電子線三次元結晶構造解析におけるデータ測定のための結晶選定作業に対しても、AIによる特徴判定を活用することで、例えば回析データを取得する場合、人の手では難しい試料だと半日から数日ほどの作業時間が必要とされるが、それが自動化され、人の作業時間は10~30分程度に短縮できるようになったとする。また、特徴を高速に判別できることから、実際のカメラを移動させて撮影する時間そのものも短縮することができるようになったともする。

  • AIを活用することで従来のクライオ電子顕微鏡が抱えていた課題を解決することが可能となった
  • AIを活用することで従来のクライオ電子顕微鏡が抱えていた課題を解決することが可能となった
  • AIを活用することで従来のクライオ電子顕微鏡が抱えていた課題を解決することが可能となった
  • AIを活用することで従来のクライオ電子顕微鏡が抱えていた課題を解決することが可能となった
  • AIを活用することで従来のクライオ電子顕微鏡が抱えていた課題を解決することが可能となった (出所:東北大発表資料)

このAI搭載型クライオ電子顕微鏡は2022年6月時点で、理研と東北大のみが有しており、共用型として広く一般企業なども活用できるものは、今回が初となるという。

タンパク質のみならず材料系の計測も可能に

また、水素を見ることができるレベルである1Åほどの分解能という従来のX線では難しかった小さなサイズを見ることができるようになったことから、従来のクライオ電子顕微鏡が用いられてきたタンパク質などのバイオ分野のみならず、有機半導体といった有機材料や、石鹸のような水になじむ部分と油になじむ部分のあるミセル構造の物質、口紅のようなワックスとオイル+顔料によるカードハウス構造、チョコレートに代表される油脂の結晶構造、こんにゃくはゼリーなどのハイドロゲルなど、さまざまな材料分野で活用されること期待され、そうした新規のクライオ電子顕微鏡適用領域の開拓も図っていきたいとしており、すでに一部の企業などが興味を示しているとする。

  • AIクライオ電子顕微鏡により、従来のタンパク質のみならず材料系への応用が可能となる

    AIクライオ電子顕微鏡により、従来のタンパク質のみならず材料系への応用が可能となる (出所:東北大発表資料)