具体的には、毒性の異なる2種のインスリンアミロイドで、高毒性の「(i)-amyloid」と低毒性の「(r)-amyloid」の形成過程に、液液相分離が関連しうるかどうかが調べられた。その結果、毒性が高い(i)-amyloidにおいてのみ、30μm程度の大きさの円形の構造体が観察されたという。

次に、最先端の顕微鏡技術を用いたFRAP(光退色後蛍光回復法)実験を実施したところ、内部は流動的であり、液液相分離現象による液滴が形成されていることが判明。低毒性の(r)-amyloidでは液滴が形成されなかったことから、アミロイドの毒性と相分離現象に関連があることが明らかにされた。

  • 毒性の異なる2種のインスリンアミロイドのうち、高毒性の(i)-amyloidにのみ、液滴が観察された

    (A)毒性の異なる2種のインスリンアミロイドのうち、高毒性の(i)-amyloidにのみ、液滴が観察された。右はPK色素を用いた蛍光イメージング画像(色素は高知大の仁子助教 提供)、BFRAP(光退色後蛍光回復法)実験による、液滴内の流動性評価。局所的にレーザーを照射し、蛍光を退色させる。もし流動的であれば、蛍光が回復する(右側グラフ) (出所:愛媛大プレスリリースPDF)

さらに、アミロイド形成における静電相互作用の影響を評価するために、塩の効果が調査された。塩は、分子間の静電相互作用を弱める作用があり、塩によりアミロイド形成が阻害されれば、静電相互作用が重要であることが示されることになる。その結果、高毒性の(i)-amyloidに関して、より塩の効果が顕著であることが確認されたほか、(r)-amyloidでは、塩濃度を変化させても、その効果はほとんどなかったという。

これらの結果は、液液相分離現象が示された高毒性の(i)-amyloid形成において、静電相互作用が重要であることが示されているとする。そのことから、疎水相互作用の影響評価も行われたが、2種のアミロイドにおいて差異は見られなかったという。

なお今回の手法では、相互作用を明らかにするために添加剤を用いると同時に、相互作用を制御するというアプローチが採用された。同手法について研究チームでは、さまざまな研究に応用可能だと思われるとしている。

ADやプリオン病などのさまざまな疾病において、アミロイド凝集が原因とされているが、アミロイド凝集の毒性機構は未解明な点が多い。そうした中、今回の研究成果から研究チームでは、静電相互作用および液液相分離を制御できれば、毒性発現を阻止できる可能性が示唆されたとしており、今後の疾病予防・治療戦略にヒントになることが期待できるとしている。

また、インスリンは糖尿病の治療にも用いられており、注射部位でアミロイド凝集が生成し、インスリンボールとよばれる腫瘤が形成される症例が多く報告されている。インスリンボールはインスリン吸収阻害や周辺組織炎症を引き起こすため問題となっていたが、今回の発見は、炎症を引き起こすメカニズムの解明にもつながることが期待されるとしている。