京都大学(京大)は6月8日、安定していて反応性に乏しい「大気窒素」を利用する微生物を用いて、バイオディーゼル生産時に副生する「廃グリセロール」から生分解性プラスチック素材を生産することに成功したと発表した。
同成果は、京大 農学研究科の吉田暢広大学院生、同・橋本渉教授らの研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
環境問題の観点から、化石燃料の代替として欧州を中心とした世界各地で、植物油などからバイオディーゼル(BDF)が製造されるようになっている。日本でも、市バスやゴミ収集車の燃料として用いる動きなどが見られるようになっている。例えば京都市の方式では、廃食用油とメタノールを、アルカリ触媒によるエステル交換反応により脂肪酸メチルエステルとグリセロールに変換する手法でBDFが生産されている。
この京都市のBDF製造で課題となっているのが、高pHかつ不純物を多く含む廃グリセロールが副生してしまう点だという(グリセロールが45%、メタノールが13%、油分とそのほかの不純物が25%で、pH9.3のアルカリ性)。廃グリセロールを利活用するためには、脱脂や中和などの前処理が必要となることから研究チームでは今回、大気窒素の固定を行う細菌「Azotobacter vinelandii」による廃グリセロールの利活用を図ることを提案することにしたという。
最初に、同菌の生育pHが調べられ、pH9以上のアルカリ性でも良好に生育することが確認された。その後、廃グリセロールを水道水のみで段階希釈した溶液での生育が可能かどうかが調べられたところ、128倍または256倍に希釈した廃グリセロールで、同菌の生育が確かめられたとする。また、微量のミネラルを添加することにより、その生育が促進されることも判明。生育条件が検討された結果、最終的には、希釈率が256倍、温度が30℃、震盪(しんとう)速度が120strokes/minの生育条件で、同菌は1000倍以上に生育し、廃グリセロール中のグリセロールを完全に消費したという。また生育3日目より、バイオポリマーの1つであるアルギン酸が細胞外に分泌生産されていることも確認された。
同菌は、アルギン酸に加えて生分解性プラスチック素材となるポリヒドロキシ酪酸(PHB)を細胞内に生産することが知られていることから、廃グリセロールからのPHB生産性を電子顕微鏡により定性的に評価したところ、同菌は廃グリセロール培地で、細胞内に油滴状のPHB顆粒を生産することが判明したとするほか、走査型電子顕微鏡解析により、細胞外にはアルギン酸に相当する繊維状物質が認められたとする。