具体的には、集束イオンビーム加工技術を用いて作成した厚さ3μmの薄片について、高空間分解能二次イオン質量分析装置を用いて、炭素、窒素、硫黄、リンといった生体主要元素の細胞レベルでのイメージングを行うというものである。しかし、細胞が小さいことから可視化できなかったため、薄片の厚さを150nmまで薄くし、電子顕微鏡を用いて観察することにしたという。
その結果、大きさが100nm程度の極小微生物が、チムニーを構成する鉱物粒子間の狭い隙間に密集していることが発見されたとする。ウイルスのような小さい物体を可視化するためにはウランで染めるのが一般的だが、今回はそれは行われていない。それにも関わらず観察できたのは、酸化銅のナノ粒子で細胞が覆われていることが理由と判明したほか、チムニー試料中の微生物のDNA解析から、岩石内部で優占するのは、DPANNに分類される始原的な古細菌であることも明らかとなったという。
活動中のチムニー内部は、栄養が絶えず供給される環境であるため、これまでも微生物が生息していること自体は知られていたが、活動が終了したチムニー内部は栄養に乏しく、生命が生息できるか否かはわかっていなかったとする。そうした中での今回の発見は、熱水からのエネルギー供給による一次生産に立脚するという、従来の深海底熱水噴出孔生態系の概念を一変する発見となったと研究チームでは説明する。
そのため今回の結果は、金属硫化物チムニー内部は、熱水が噴出していなくても光合成に依存しない微生物の生息場になり、光合成生物誕生前の地球においても生態系が形成されることを示すものであるとしており、今後は、ゲノムや遺伝子発現について解析を行い、始原的古細菌の代謝や岩石内部での有機物合成経路についても研究を行う予定としている。