東京医科大学は、複数の企業群を対象に行われた職業性ストレスの状況(ストレスチェック)、睡眠の状況、そして勤務時間に関する質問紙調査を行うことにより、長時間の労働・残業は直接的にはうつや心身のストレス反応に関係しないが、睡眠時間の短縮と食事時間の不規則化を介して、メンタルヘルスに間接的に有意に関連することを明らかにしたことを発表した。

同成果は、東京医科大 精神医学分野の渡邉天志医師、同・志村哲祥医師らの研究チームによるもの。詳細は、環境科学・公衆衛生・医療経済学などを扱う学術誌「International Journal of Environmental Research and Public Health」に掲載された。

日本においては、長時間労働を契機とした自殺などが社会的問題となるなど、過重労働は社会的な課題の1つとされ、残業時間の総量規制や上限の引き下げなどが進められてきた。背景には、長時間労働がメンタルヘルスに害悪を及ぼすという認識があるためだが、実は長時間労働とメンタルヘルスの関係はよくわかっていないという。例えば、総労働時間そのものはこの数十年間減少傾向が続いているものの、労働者世代の自殺者はそれと比例して減少はしていないほか、精神障害による労災認定も増加の一途を辿っているという。

また、学術的研究においても、労働時間・残業とメンタルヘルスとの関係についての結論は分かれてしまっているという。有意な関係があるとするものもあれば、関係がみられないとするもの、あるいは逆に労働時間が長い方が労働者の活力を高める場合すらあるという研究もあり、結論が一定していない状況だという。

さらに、メタアナリシス(統計学的手法を用いて複数の研究の結果を統合する分析手法)においても「関係がないか、あったとしても非常に弱い」と示される結果もあり、実際に「本当に長時間労働は精神的に害悪なのか」については明確な結論が示されていなかったという。

そこで研究チームは今回、「長時間労働とメンタルヘルスとの間には何か別の因子が介在しており、その因子の影響が強いが故に効果量が安定しないのではないか」と考え、その媒介因子とは、過重労働で影響を受けることが想定される「睡眠」と「食事」ではないかと考察。共分散構造分析を用いて、労働時間と睡眠時間・食事の規則性、そしてうつや心身の不調との関係性の分析を行ったという。