京都大学(京大)は6月7日、従来の弾性体(柔らかい物体)は変形と遊泳が切り離せないため、これまでの遊泳公式を適用できなかったが、弾性体の拡張概念である「奇弾性体」が流体中で自発的に遊泳することを理論的に発見し、その遊泳公式の導出に成功したことを発表した。

同成果は、京大 数理解析研究所の安田健人 日本学術振興会特別研究員、同・クレマン・モロー研究員、同・石本健太准教授らの研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する粒状材料も含めた多体システムの集合現象に関する全般を扱う学際的な学術誌「Physical Review E」に掲載された。

細胞スケールの遊泳に関する基礎法則の「パーセルの帆立貝定理」によれば、微小スケールでの遊泳には、行きの変形と帰りの変形が異なっている「非相反な変形」が必要であることが明らかにされている。また、帆立貝定理を含む遊泳公式により、与えられた変形に対して遊泳挙動を計算することも可能となった。

しかし、遊泳するものが弾性体になると、変形そのものが物体と流体の複雑な相互作用によって生じるため、その変形の挙動をあらかじめ知ることができない。そのため、従来の遊泳公式を適用できず、弾性体に対する遊泳公式は大きな課題として残されていたという。

また、単なるゴムのような弾性体ではなく、生物の場合、体内に持つエネルギー源を積極的に使うことができることから、生物の遊泳挙動を理解するためには、エネルギー保存則が破れた新たな力学理論が必要となるとする。そこで研究チームが注目したのが、エネルギー保存則が破れた物体に現れる「奇弾性」と呼ばれる性質だという。

  • 血管内を流れるマイクロマシンのイメージ

    血管内を流れるマイクロマシンのイメージ (出所:京大プレスリリースPDF)

エネルギー保存則を満たす物体には、力と変形の間の関係を表す「マクスウェル・ベッチ相反性」があるために、ゴムのような通常の弾性体が自発的に変形することはない。そこで研究チームは今回、生物のように自発的に変形する物体を、「エネルギー保存則が成り立たない物体」として捉えることにすると、マクスウェル・ベッチ相反性が破れる「奇弾性」が生じるという点から、この奇弾性体の流体中の挙動が、どのようになるのかが検討された。