今年3月にBtoB向けとBtoC向けに分社化したF-Secure(エフセキュア)。今回、6月1日~2日の2日間でフィンランド・ヘルシンキにおいてBtoB向けの会社として出発したWithSecure(ウィズセキュア)が主催する「Sphere 2022」が開催された。本稿では初日に行われた基調講演などを紹介する。
「Co-Security unconference」とは
そもそも、Sphere 2022はベンダーが年次で行うカンファレンスではなく“Co-Security unconference(コ・セキュリティ アンカンファレンス)”として、分野を横断したビジネスリーダーやイノベーターなどをゲストとして招聘し、発表を行う場としてWithSecureでは位置づけており、世界20カ国350人が参加した。
はじめに登壇したのは、WithSecure プレジデント兼CEOのJuhani Hintikka(ユハニ・ヒンティッカ)氏だ。
冒頭、同氏は「このような困難な時代をともに生きて、何が重要なのかを再認識しましょう。私は、新しく立ち上げたWithSecureを記念して“アンカンファレンス”と呼ぶ、ユニークな体験に参加していただきたいと考えました。Sphereはセキュリティ担当者だけが話をするような典型的なセキュリティイベントとは異なります。これは『Co-Innovation(コ・イノベーション、共同革新)と『Co-Creation(コ・クリエーション、共同創造)』の場です。なぜならサイバーセキュリティは、すべての人に関わる課題だからです」と述べた。
ヒンティッカ氏は、すべてのサイバーセキュリティにおける課題は1人で解決することは不可能であり、直面する脅威に対して新しい角度でとらえる必要性があるとしている。同氏は「こうしたアプローチをWithSecureではCo-Security(共同セキュリティ)と定義しており、自らの知識・リソース・能力を拡大してパートナーになる意志を持つことからスタートします」と力を込める。
このような考え方がSphere 2022の根幹となり、サイバーセキュリティに焦点を絞るのではなく、さまざまな業種・経歴を持つ人々が登壇するという点が重要だという。社会が必要としている新しい考えを生み出すには、相互的な喚起が必要不可欠となり、それを実現するものが“アンカンファレンス”だとしている。
このように、アンカンファレンスの意義を説明したヒンティッカ氏は「われわれはサイバー攻撃や犯罪により、誰も深刻な損失を経験することのない未来を描いています。サイバー脅威が蔓延するデジタル社会でビジネスに対して“自由”を提供したいと考えており、お客さまのニーズと目標を大事にし、適応力のあるテクノロジーや人間の専門知識、セキュリティの成果に対して着眼点を与えることでCo-Securityのアプローチを実現しています。今こそ、ビジネスモデルに直接つながる価値を提供する同士へと進化するときです。デジタル社会における信頼の構築・維持は重要であり、そのためにわれわれは存在しています」と強調していた。
ロシアとウクライナだけの問題ではない - ヒッポネン氏
初日のプレゼンテーションの中でも、一際目を引いたのはWithSecure CRO(Chief Research Officer)のMikko Hypponen(ミッコ・ヒッポネン)氏が「Ctrl Z」と題したものだ。ここで言う“Z”とは、ロシア軍がウクライナへの侵攻に際してシンボルマークとして掲げているZだ。これまでも何度か同氏には取材の機会を得ているが、フィンランドもロシアと国境を接していることから、どこか鬼気迫るものがあった。
まず、同氏は「テクノロジーは社会を形成するとともに戦争の行方を変えます。数百年前まで人類は剣や盾を使い、戦っていました。なぜなら、これらが当時はベストのテクノロジーだったからです。その後は、銃や飛行機、衛星などにより、陸・海・空にまで戦争を拡大することになってしまいました」と話す。
現代の戦争がテクノロジーを駆使していることは事実であり、サイバー兵器は正確に機能する兵器で効率的かつ低価格のものとなっているとの認識を同氏を示している。また、ヒッポネン氏は「現在、ヨーロッパで戦争が起きており、私は非常に驚きました。と言うのもロシアのプーチン大統領が戦争を起こすことなど、考えてもみなかったからです。ウクライナのキーフ(キエフ)を攻撃することは想像もしていませんでした」とウクライナ侵攻当時を回顧していた。
続けて、同氏は「プーチン大統領はサイバー攻撃やソーシャルメディアによる干渉行動などで、われわれ西側諸国の文化を崩すとともに弱みをもたらしたことから、ここ10年間は勝者だったのです。ロシア政府は西側諸国の結束を弱めていたにもかかわらず、われわれが今回の侵攻によりかつてないほどの制裁を与えるなど非常に強い結束が生まれました。プーチン大統領は、それを予測していなかったかもしれません」と指摘。
ヒッポネン氏は、当初西側諸国はウクライナが侵攻されるという情報を信じていなかったが、実際には戦争が始まったため、情報の重要性を信じるべきであり、現状では物理的にもサイバー的にもウクライナ侵攻が繰り広げられているという。
そして、同氏は「ロシアとウクライナは国境で1974km接しており、フィンランドは1340kmの国境をロシアと接しています。そのため、ウクライナだけでなくヨーロッパ全体で戦争が起きる可能性がある、と認識しなければなりません。ロシアとウクライナではなく、ヨーロッパの問題です」と警鐘を鳴らす。