奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)は6月3日、微小なサイズの大腸菌などの細菌でも、形状の違い(横幅と全長のアスペクト比)を自律的に分類・分離できるマイクロ流体デバイスの開発に成功したことを発表した。
同成果は、NAIST 先端科学技術研究科 物質創成科学領域 生体プロセス工学研究室の細川陽一郎教授、同・ヤリクン・ヤシャイラ准教授、同・岡野和宣研究員、豪州・マッコーリー大学のリ・ミン講師らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英国王立化学会が刊行するマイクロおよびナノスケールのデバイスとアプリケーションに関する全般を扱う学術誌「Lab on a Chip」に掲載された。
細菌類は実に多種多様で、たとえば大腸菌といっても、ヒトの体内で胃腸管にコロニーを作って共生して特定の炭水化物の分解に重要な役割を果たしているものもいれば、ベロトキシンという毒素を産生するなどの病原性のものもいる。また、遺伝子の発現、タンパク質の大量生産などさまざまな研究に、最も使用されている生物が細菌類であり、その形状は細菌類の特性と密接に関係しているため、形状の調査に重要な意義があるという。
これまで、細菌類の分取方法はフィルタリング(濾過など)、遠心分離、または光学的に分類するフローサイトメトリーなどの技術がメインだった。しかし、サイズが1μm前後の大腸菌1個ずつの形状を認識し、形状ごとに効率よく分取する方法は存在していない。
一方で、極めて微量な液体を扱うマイクロ流体デバイス技術ではこのような膨大な数の微小な生体試料の形状・サイズによる分取が実現することが可能だが、既存の技術を用いる場合、デバイスとシステムが複雑になって微小な構造体を有するマイクロ流路が詰まりやすくなるため、大規模で効率的に普及させるのが困難だったという。
そこで研究チームは今回、従来のマイクロ流体デバイスに使われる水のようなニュートン性流体だけではなく、非ニュートン性流体(粘弾性流体)を導入して利用することにしたという。