具体的には、波長380~780nmの可視光での吸収を抑えるようにEO分子の構造を短く曲がりにくく設計したことで、従来のEOポリマーよりも2万分の1以下に吸収を小さくすることができ、可視光で利用できるようになったとする。

この新規EOポリマーを用いて、マッハ・ツェンダー型干渉計構造が設計され、微細加工プロセスにより光変調器が作製された。可視光で動作するためには、従来の近赤外光での光変調器よりも導波路のサイズを小さくする必要があるが、光が伝搬する導波路の幅が比較的大きくてもシングルモードが担保されるリッジ型導波路を採用することで、精度の高い加工が必要ではあるものの、従来の微細加工プロセスを改良することなく開発することに成功したという。

EOポリマー光変調器に電気信号を加えて、出射光の変調動作の評価が実施されたところ、波長640nm(赤色)で、性能指数は0.52V・cmだったとする。これは、従来のEOポリマー光変調器の動作波長である近赤外光よりも短い波長であり、性能指数は3分の1以下と高効率(小型・低電圧)であることが確認された。

  • 光変調器の動作波長と性能指数

    光変調器の動作波長と性能指数。今回の成果とこれまでに報告されているLN光変調器およびEOポリマー光変調器 (出所:NICT Webサイト)

可視光で高効率な光変調器が実現できることが示された今回の研究成果は、光制御技術や情報表示技術にイノベーションを起こす先駆的な成果だと研究チームでは説明している。

光変調器は、光の位相を制御することができ、これを応用すると光ビームを成形・走査する光フェーズドアレイを作製することも可能となるとする。この可視光用光フェーズドアレイは、立体ディスプレイなどの表示デバイスへの応用展開が可能であり、小型軽量で高効率な表示デバイスは、スマートグラスなどの次世代ウェアラブル端末への搭載が期待できるとするほか、可視光で動作できると、安価なシリコン系の光検出器が使用できるようになるため、システム全体のコストダウンにつながるとしている。

なお今後については、開発された可視光用EOポリマーを用いて光フェーズドアレイを作製して動作実証を行い、表示デバイス実現に取り組むとするほか、赤色以外の緑色・青色用のEOポリマーの開発を行い、立体ディスプレイなどへの応用展開を図るとしている。